日本大百科全書(ニッポニカ) 「リカオン」の意味・わかりやすい解説
リカオン(動物)
りかおん
hunting dog
[学] Lycaon pictus
哺乳(ほにゅう)綱食肉目イヌ科の動物。一見すると短毛で吻(ふん)が短い家犬に似るが、家犬やオオカミ、ジャッカルとは別系統でドールに近く、裂肉歯がきわめて鋭く、かむ力が強い。平坦(へいたん)地の走行に適して四肢が長く、前後足とも4指。耳介が丸く大きい。頭胴長80~110センチメートル、尾長30~40センチメートル、体高70~75センチメートル、体重18~28キログラム。体には黒褐色、黄褐色、白色の不規則な斑(はん)があり、個体ごとに斑紋が違うが、尾端はつねに白色。サハラ砂漠以南のアフリカの半砂漠地帯からサバナ地帯までに分布する。4~40頭(ときに100頭)の群れで広い地域を獲物を求めて放浪し、シマウマの幼獣、ガゼル、リードバック、インパラなど中形の有蹄(ゆうてい)類を主食とする。狩りは早朝と夕方に群れで行い、手分けして長い距離を高速で獲物を追いかけ、疲れさせてとらえる。ときには大形のレイヨウやシマウマの成獣、またはウサギ、トビウサギなどの小獣をも捕食する。多産で1腹2~16子(平均7子)をツチブタやイボイノシシの古巣に産む。妊娠期間は69~72日。乳頭は12~14個。子は1歳半で性的に成熟する。寿命は10~12年である。
[今泉吉典]
リカオン(ギリシア神話)
りかおん
Lykaon
ギリシア神話でアルカディアの王。ペラスゴス(ゼウスとニオベの子、あるいは大地から生まれ出たともされる)の子。リカオンと50人にも上るその息子たちは、皆傲慢(ごうまん)で不信心であった。彼らは、貧者に身をやつして地上の人間の善悪を試していたゼウスがやってきたとき、この客人に人肉料理を供した。そのため怒ったゼウスは彼らを雷電で撃ち殺し、逃げるリカオンを狼(おおかみ)(リコス)に変えた。
また別の説では、リカオンはリカイオン山でゼウスの祭祀(さいし)を始めたが、幼児を生贄(いけにえ)にしてその血を祭壇に注ぐため憎まれ、狼に変えられた。以来この地では、ゼウスへの犠牲式のおりにはだれかが狼に変身したが、9年間人肉を断ち続けたならば人間に戻ることができたという。パウサニアスの伝えるこの話は、ヨーロッパの人狼伝説の早い記録例といえよう。
[中務哲郎]