精選版 日本国語大辞典 「おわします」の意味・読み・例文・類語
おわしま・すおはします
- 〘 自動詞 サ行四段活用 〙 ( 「おおまします」の変化した語。一説に「おわす」に尊敬の補助動詞「ます」の付いたもの )
- [ 一 ]
- ① 「ある」「いる」の意の尊敬語。存在、状態の主を敬っていう。いらっしゃる。おいで遊ばす。
- ② 特に、この世にいる、生きている意の尊敬語。生きていらっしゃる。御在世である。
- [初出の実例]「同じ宮、おはしましける時、亭子院にすみ給ひけり」(出典:大和物語(947‐957頃)七二)
- ③ ものの所有者を敬って、そのものがあるの意を表わす。おありになる。持っていらっしゃる。
- [初出の実例]「感情(めてたまふみこころ)有(オハシマス)」(出典:日本書紀(720)允恭八年二月(図書寮本訓))
- ④ 「行く」の尊敬語。いらっしゃる。おいで遊ばす。
- [初出の実例]「皇后、懐姙開胎(みこあれまさむとする)日に、禁の中に巡行(オハシマス)」(出典:日本書紀(720)推古元年四月(岩崎本訓))
- ⑤ 「来る」の尊敬語。いらっしゃる。おいで遊ばす。
- [初出の実例]「故式部卿の宮を〈略〉せちによばひ給ひけれど、おはしまさざりける時」(出典:大和物語(947‐957頃)二〇)
- [ 二 ] 補助動詞として用いる。
- ① 動詞の連用形(または、それに助詞「て」の付いたもの)について、動作、状態の継続の意を添える「ある」「いる」、動作の方向や状態の推移を示す「行く」「来る」の意を敬っていう場合に用いる。…ていらっしゃる。…ておいで遊ばす。
- [初出の実例]「天皇伊予より至(かへりオハシマス)」(出典:日本書紀(720)舒明一二年四月(図書寮本訓))
- 「帝、春宮の御ざえかしこく、すぐれておはします」(出典:源氏物語(1001‐14頃)花宴)
- ② 使役の助動詞「す」「さす」と共に用い、特に敬意の強い①の意を表わす。
- [初出の実例]「上も聞しめして興ぜさせおはしましつ」(出典:枕草子(10C終)一三七)
- ③ 形容詞・形容動詞の連用形、体言に断定の助動詞「なり」の連用形「に」の付いたもの(または、それらに助詞「て」の付いたもの)に付いて、叙述の意を添える「ある」「いる」の意の尊敬語。…ていらっしゃる。…ておいで遊ばす。また、…でいらっしゃる。
- ① 動詞の連用形(または、それに助詞「て」の付いたもの)について、動作、状態の継続の意を添える「ある」「いる」、動作の方向や状態の推移を示す「行く」「来る」の意を敬っていう場合に用いる。…ていらっしゃる。…ておいで遊ばす。
おわしますの語誌
( 1 )「おわします」は「おわす」に比べて一般に敬意が強く、ことに平安時代では、帝、院(上皇)などの動作、状態の尊敬にはこれが用いられる。
( 2 )訓点資料では、「まします」「います」を多く用い、「おわします」(さらに「おわす」)はごくわずかしかないが、「日本書紀」古訓には相当数の用例が見られる。