カデンツァ(読み)かでんつぁ(英語表記)cadenza イタリア語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カデンツァ」の意味・わかりやすい解説

カデンツァ
かでんつぁ
cadenza イタリア語

音楽用語。

(1)和声終止形のこと。和声終止形には、大別して、完全終止、不完全終止、偽(ぎ)終止の3種類がある。完全終止とは、基本位置での属和音主和音の連続をさし、厳密には上声部が強拍で、主音をとる場合に限られる。また、基本位置での下属和音と主和音の連続も含むことができる。楽曲の終わりや各部分を閉じる箇所に用いられ、満足な完結性を与える。不完全終止とは、どちらか一方が転回形の属和音と主和音の連続をさすが、英語の慣用では半終止もこれに含める。半終止とは、通常、主和音から属和音への進行をさすが、主和音以外の和音からの進行も含まれる。半終止は、大楽節構造における前楽節のようなフレーズ切れ目に置かれ、後続部分への連結性をもっている。偽終止とは、属和音から主和音以外の和音へ行く終止で、Ⅵ度の和音への進行が代表的である。フレーズの途中にあって軽いくぎりとなり、終止感というよりは、むしろ終止の期待を裏切る効果をもっている。

(2)カデンツァ・フィオリトゥーラcadenza fiorituraやカデンツァ・ディ・ブラブーラcadenza di bravuraの略。独奏者や独唱者の名人芸的技巧を示すべく、コーダ(楽曲終結部)の前に挿入された装飾的楽句をさす。元来、演奏者の即興演奏であったが、ベートーベン作曲のピアノ協奏曲第5番(「皇帝」)あたりから、作曲者によって書かれるようになった。

[黒坂俊昭]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カデンツァ」の意味・わかりやすい解説

カデンツァ
cadenza

音楽用語。 (1) 一般には,曲の終止の前に,独奏者 (独唱者) が演奏技巧を十分に発揮できるように挿入された装飾的な部分。この技法は初め声楽曲において用いられたが,のちに器楽曲,特に協奏曲に取入れられた。再現部が終りコーダに入るところで,伴奏部が属音上の I46 の和音を奏すると,独奏楽器主題に基づく自由な変奏を無伴奏で行い,十分名人芸を披露したあと,普通,属7の和音上の長いトリルを奏し,それに誘導されてオーケストラが入り,コーダを奏して曲を終る形をとる。初期には演奏者が独自のカデンツァを用意したが,ベートーベン以後あたりから,作曲者があらかじめ作曲する風潮が強まった。 (2) 「終止形」の意。ラテン語の cadere (落下する) からきた言葉。この意味では通例ドイツ語のカデンツが用いられる。

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