改訂新版 世界大百科事典 「カピトゥラリア」の意味・わかりやすい解説
カピトゥラリア
capitularia[ラテン]
カロリング朝フランク国王が発した勅令の総称。通例いくつかの章capitulumに分かれているので,この名称(〈章令〉の意)がある。伝統的見解によれば,規定の内容からみて,教会勅令(聖界に関連した問題),俗事勅令(世俗の問題),混合勅令(聖俗双方に関する問題)に分類され,俗事勅令はさらに,部族法典付加勅令(部族法典を補充するもので,当該部族の〈人民の同意〉を必要とした),独立勅令(国王が一方的に発布・廃止することのできるもの),巡察使勅令(国王巡察使に与えられる訓令であるが,同時にしばしば巡察使により各地で公布されるべき命令の性質をも有するもの)に分けられる。しかし現在の研究からすれば,このような分類には疑いがもたれている。まず規定の内容に関しては,もっぱら世俗の問題のみを規律する勅令はわずかであり,たいていは少なくとも教会の問題をも含んでいること,次に俗事勅令の3区分は,近代的な法律・勅令・行政命令という観念を投影するものであって,実際の勅令にはこれらすべてが分かちがたく混じり合っていることが指摘される。フランク王国は決して近代国家のように整然と秩序立った制度的国家ではなく,勅令の発布や廃止も一定の原則にしたがって行われていたわけではない。内容・形式ともに種々さまざまともいえる勅令をひとつに結び合わせているものは,キリスト教的秩序を求める明確な志向であり,そこにまた,メロビング朝諸国王の勅令との根本的相違が認められる。勅令はくり返しくり返し厳命されているが,これは実際に通用させることが容易でなかったことを示すものである。したがって,カピトゥラリアはフランク国王の(この世における神の代理者としての)〈統治のプログラム〉にすぎなかったとみることもできよう。
執筆者:佐々木 有司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報