一般には、17、18世紀のイギリス革命やフランス革命以後の近代社会・近代世界に登場した国民(民族)国家をいう。その意味では、現代資本主義国家、社会主義国家、発展途上国なども広くその範疇(はんちゅう)に含めて考えてよいであろう。いずれにせよ、この近代国家は、ギリシアの都市国家、中世の封建国家、あるいは市民革命前の絶対主義国家とは、政治原理や政治運営の方法においてその性格を大きく異にする。
近代国家の政治原理としては、主権は国民にある(国民主権主義)、政治は国民が選出した代表者からなる会議体(議会)の制定した法律によって運営される(法の支配)、国民の権利・自由は最大限に保障され(人権保障)、そのためには民主的政治制度(代議制・権力分立)の確立を必要とする、などがあげられる。このような近代国家の論理や政治思想は、ホッブズ、ハリントン、ロック、モンテスキュー、ルソーなどによって体系化されたものである。
近代国家は、ギリシアの都市国家や中世の封建国家とは異なり、その規模(領土)においても人口の数においてもきわめて巨大な統一国家である。また絶対王政末期のイングランドにみられるように、この政治共同体内部ではすでに分業による生産組織(資本主義)が広範に形成され、いまや商工業者(市民)の力は無視できない状況にまでなっている。したがって、こうした政治共同体においては、もはや君主や少数の貴族による力の支配は時代遅れのものとなり、不適合なものであった。国民のエネルギーを結集し、生産力の飛躍的発展を図るためには、国民の多数が政治に参加し、共通の法律を基礎にして統治し統治される自由で安定した政治運営の確立が必要となった。このようにみるとき、国民の自由や平等の確立要求、国民主権主義、法の支配、議会制民主主義の思想や制度、いや近代国家の成立そのものさえが、新しい経済組織(資本主義)の発展と密接な関係にあったことがわかる。
ところで、近代国家形成の初期には、地主階級や上層ブルジョアジー以外の人々は参政権を認められていなかったから、近代国家の標榜(ひょうぼう)する国民の権利・自由の保障はかならずしも十分なものとはいえなかった。この問題は、産業革命後、急速に増大し始めた中・小市民層や労働者階級による政治参加の要求が高まるにつれて、19世紀から20世紀の間(かん)に各国において普通選挙制が実施されるなかで、しだいに改善されていった。また資本主義経済を基礎にして出発した近代国家においては、その後、資本主義の発展によって、恐慌、失業、貧困などのさまざまな経済・労働・社会問題が発生した。この問題については、19世紀末ごろからとくに世界大恐慌以後、国家が社会保障や社会福祉の充実に努め、財政・金融政策などをはじめとする福祉・経済・労働政策を実施することによって、その解決策を図っている。こうして、現代の国家は、政府が経済の運行に積極的に関与し経済成長と経済の安定を図るいわゆる「混合経済」を基調とする性格をもつものとなり、このような国家は、今日では、福祉国家、行政国家、修正資本主義国家、国家独占資本主義国家などのさまざまな名称でよばれている。
そのほか現代の国家には、資本主義とは異なる社会主義の原理に基づいて建設された社会主義国家や、資本主義と社会主義の双方の原理を組み合わせたような多数の発展途上国もある。このように現在この地球上には、政治・経済体制を異にする約200か国の国民国家が共存しているが、そのほとんどは、国民の権利・自由の確立と生活の安定を努力目標に掲げている。その際すべての国々の政治運営の指針となるものは、近代国家成立期から現代に至るまで「自由と平等」「民主主義と平和」の確立を求めて努力してきた人類の歴史と思想原理のなかにみいだすことができよう。
[田中 浩]
『田中浩著『国家と個人』(1990・岩波書店)』
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…この意味で民族国家とほぼ同意に用いられる。また,多元的分裂状態を克服して成立した統一的な絶対主義国家を含めて国民国家という場合もあるが,絶対君主に集中されていた権力・主権を,市民革命によって奪取した結果形成された国家を指し,その意味で近代国家といわれる。したがって近代国家という観念は,ふつう封建国家や絶対主義国家などに対置して用いられる。…
※「近代国家」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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