日本大百科全書(ニッポニカ) 「かまどの神」の意味・わかりやすい解説
かまどの神
かまどのかみ
かまどは食物調理の火を焚(た)く場所であるから、いわば家屋の心臓部に相当し、古くからこれについての信仰は根強い。関東・東北ではオカマサマとよぶことが多いが、近畿を中心に全国広く三宝荒神(さんぼうこうじん)の称があり、近畿以西ではドクウサマ、ロックウサンとよぶことが多い。三宝荒神は、修験者(しゅげんじゃ)や日蓮(にちれん)宗信徒の間では、三宝(仏・法・僧)を守護し、浄信者を助け、悪人を罰する神として、宝冠を頂き、三面六臂(さんめんろっぴ)で、忿怒(ふんぬ)または如来(にょらい)の相で表されている。この神が、清浄を愛し、不浄を強く排するところから、火の神の信仰に結び付けられ、「荒神さんを粗末にすると罰があたる」「かまどに乗ると荒神さんが怒る」などの俗信が広く及んでいる。ドクウサマは、陰陽道(おんみょうどう)で重んじられ土をつかさどるとされる土公神(どこうじん)からきたもので、かまどを汚すと土公神の祟(たた)りがあると信じられてきた。
これらに対し、オカマサマは、いかにも主婦と関連深い神で、子供を多くもち、とかく控え目で、神無月(かんなづき)の諸神の出雲(いずも)行きにもこの神だけは同行しないといわれ、所によっては夫の不在中のつつましやかな饗宴(きょうえん)も、この神になぞらえて「オカマノルスンギョウ」とよばれる。東北の一部では、かまどの神の神体との意味で、釜神(かまがみ)さまと称し、醜怪な感じの男の面を竈の上方に安置する例がある。農家の年中行事のなかには、田植のときに五目飯を供える風があったりして、かまどの神は本来は家の守護神、農耕の神でもあったとの観がある。かまどの神を祓(はら)い清めて祀(まつ)ることを竈(かまど)祭りといい、年末に神職が家々を訪れて祀った。
[萩原龍夫]