カローシュティー文字(読み)カローシュティーもじ(その他表記)Kharoṣṭhī

改訂新版 世界大百科事典 「カローシュティー文字」の意味・わかりやすい解説

カローシュティー文字 (カローシュティーもじ)
Kharoṣṭhī

古代,西北インド,北インドから中央アジアで用いられていた文字。前518年,ダレイオス1世はインダス川流域に侵入し,インダス川以西をアケメネス朝の属州とした。この文字は前5世紀ころ,ブラーフミー文字を知っているものが,アラム文字を借用して,この地の言語を便宜的に表記するために考案したものとされている。ハザーラーのマーンセヘラーとペシャーワルのシャーバーズ・ガリーより,アショーカ王による磨崖碑文が発見されているが,この文字で刻まれており,前3世紀ころにはこの文字が普及していたことがわかる。アショーカ王以後も,シャカ,クシャーナ朝の諸王によって採用されたが,5世紀以降,ブラーフミー系文字と交代し,その後,忘れ去られてしまった。19世紀には解読され,仏教,ジャイナ教文献および《法苑珠林(ほうおんじゆりん)》から,カローッティー,カローシュティーの名称が確認されたが,起源については諸説がある。
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百科事典マイペディア 「カローシュティー文字」の意味・わかりやすい解説

カローシュティー文字【カローシュティーもじ】

アラム文字に基づいて作られたといわれる古代インドの文字。アショーカ王碑文アショーカ王石柱)を最古資料とする。北西インドから中央アジアに普及,3世紀ごろの文書がA.スタインによって発見された。
→関連項目悉曇ニヤブラーフミー文字梵字ミーラーン

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カローシュティー文字」の意味・わかりやすい解説

カローシュティー文字
カローシュティーもじ
Kharoṣṭhī

古代インドで用いられた文字の一つ音節文字で,252字から成る。アケメネス朝ペルシアで用いられた北セム系のアラム文字が,ペルシア支配下におかれた北西インドで発達してできたもの。前3世紀のアショーカ王の碑文が現存最古のものである。3世紀までには,東トルキスタン各地に広まった。その後ブラーフミー文字に取って代られ,5世紀以後の文献は発見されていない。

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世界大百科事典(旧版)内のカローシュティー文字の言及

【インド系文字】より

…滅亡の時期を前1500年とすると,ブラーフミー文字による現存最古の碑文の年代まで約12世紀の断絶があり,この断絶を埋める文字資料は発見されていない。 1837年,ジェームズ・プリンセプによってほぼ解読されたブラーフミー文字,同人によって17文字解読されたカローシュティー文字は,アショーカ王による石柱,磨崖碑文の文字である。カローシュティー文字は,前5世紀ころ,ブラーフミー文字を知っている者が,アラム文字を借用して考案したものとされている。…

【カローシュティー文書】より

…西北インドがアケメネス朝ペルシアの支配下にあった前5世紀ころに,その王朝の公用文字であるアラム文字を,ブラーフミー文字を参考に改良し,インド語表記に適したカローシュティー文字がつくられた。西北インドにはこの文字による碑文も発見されているが,一般にカローシュティー文書というのは,中央アジアのクロライナ(楼蘭),ニヤ,エンデレから出土した木簡,皮,絹布,紙などに書かれた世俗文書を指す。…

※「カローシュティー文字」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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