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悉曇 しったん

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

悉曇
しったん

Siddhaṃの音写。完成したものの意で,サンスクリット語を表記する書体の一つ。グプタ文字の系統に属する書体で,4~5世紀頃インドで流行した。これが中国や日本に伝承され,単に書体だけでなく,音韻,字義を含めた悉曇学として継承された。しかし,サンスクリット原典を研究するほどの学問的隆盛はみられなかった。唐の智広の『悉字記』が有名。また日本では,江戸時代の慈雲の『梵学津梁』が,当時の一切の資料を網羅集成した点で有名。現在では,特殊な研究者以外は,守護札,塔婆,石塔などを書くために,その書体が模倣されているにすぎない。悉曇学の伝えるところによれば,12の母音 (伝により 14) を摩多 mātā,35の子音体文 vyañjanaと呼ぶ。子音は本来aの母音をもつとされるので,aを表わす特殊な記号は用いられないが,a以外の場合は子音にその特殊記号をつける。子音と母音の組合せを悉曇切継 (きりつぎ) といい,この用例集を悉曇章と呼ぶ。また完備した形が 18章から成るため,悉曇十八章ともいう。

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デジタル大辞泉の解説

しったん【×曇】

《〈梵〉sīddhaṃの音写。成就吉祥の意》
梵字字母とそれが表す音声の総称広義には摩多(また)(母音)と体文(たいもん)(子音)の総称として用いられるが、狭義には摩多の一二韻のみをさす。日本には天平年間(729~749)に中国を経てインドから伝えられた。
悉曇学」の略。

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百科事典マイペディアの解説

悉曇【しったん】

サンスクリットを表すための書体の一つ。サンスクリットのシッダムの音写。古代インドではブラーフミー文字カローシュティー文字の2種があり,前者が仏教の伝播に伴って,中国・日本に伝えられたものが〈悉曇〉である。
→関連項目五十音図悉曇学梵字

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世界大百科事典 第2版の解説

しったん【悉曇】

サンスクリットのsiddhaṃの音訳。シッダムとは〈完成せるもの〉の義で,狭義にはサンスクリットの母音文字を指すが,広義には母音を伴って発音される子音文字およびそれらの合成字も含まれた。したがって,サンスクリット文字を悉曇と称するが,一般的にはサンスクリット文字,専門的には悉曇と使い分けられる傾向にあった。また,悉曇字母(シッダ・マートリカーSiddha‐mātṛkā)という固有の文字の名称でもある。

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大辞林 第三版の解説

しったん【悉曇】

siddham の音訳で、成就・吉祥きつしようの意。もと字母表の初めに成就・吉祥を願ってこの語を書いたところから出た語〕
梵字の字母。摩多また(母音)一二字と体文たいもん(子音)三五で構成される。狭くは、摩多のみをさす。また、これに関する研究をもいう。日本へは八世紀頃に伝えられ、五十音図成立のきっかけとなるなどの影響を与えた。当時の盛んな悉曇学の集大成に、安然あんねん著「悉曇蔵」(880年成立)がある。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

悉曇
しったん

日本に伝来した梵語(ぼんご)(サンスクリット)についての学問、およびそれに用いられた文字のことをもいう。悉曇Siddhamという名称は、梵語の音を表にしたもの(字母表という)の頭初に、nama sarvajya siddhamと書いて、その字母表の成立を祝福する習慣があったことから出たとされる。梵語字母表はもちろんインドで作成され、子供の学習に用いられたものであるが、中国では南北朝時代に、『涅槃経(ねはんぎょう)』文字品(ぼん)の解釈に伴って盛んに研究されるようになった。唐代には語学としても研究され、智広(ちこう)の『悉曇字記』はことに発音に詳しい。唐代中期以後、密教が盛んとなるにつれ、音声神秘観が重視されて、梵語のままに唱える真言・陀羅尼(だらに)が盛行した。その教風・教義が平安初期に日本に渡来し、密教の隆盛とともに悉曇の学も勃興(ぼっこう)した。入唐八家(にっとうはっけ)(最澄、空海、常暁、円行、円仁(えんにん)、恵運(えうん)、円珍、宗叡(しゅうえい))はいずれも悉曇に関係はあったようであるが、なかでも空海は真言宗の悉曇、円仁は天台宗の悉曇の祖となった。これらの時代の悉曇を集大成したのが安然(あんねん)の『悉曇蔵』である。その後、真言・天台の各宗各派においてその学は継承され、院政時代の天台の学僧明覚によってさらに音声学的に研究され、しだいに中国語学と一体となって韻学というべきものが形成されるようになった。ここから国語研究の機運がおきたのである。明治以後は西欧の梵語学と交替するが、日本における語学研究の基礎を開いた功は大としなければならず、現代のサンスクリット語学でも、古代に東方へ伝播(でんぱ)したこの学の存在を無視することはできない。[馬渕和夫]

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