ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カンティロン」の意味・わかりやすい解説
カンティロン
Cantillon, Richard
[没]1734.5.15. ロンドン
アイルランド生れの銀行家,経済学者。イギリス,フランスを中心にヨーロッパで銀行業を営み,J.ローとともにミシシッピ計画に従事するが,のち離反。巨富を得てロンドンに邸宅を構えたが同地で何者かに殺害された。これまでに見つかっている唯一の書『商業論』 Essai sur la nature du commerce en généralは,1881年 W.S.ジェボンズが「再発見」して以来周知のものとなったが,それ以前の影響もはかりしれない。同書は彼の死後,手稿のままイギリス,フランスで流通し,1755年にパリで匿名で出版され,V.R.ミラボー,V.グルネー,F.ケネー,A.テュルゴー,A.スミスらに多大の影響を与えていた。今日では,カンティロンは重商主義と重農主義との中間期における最も卓越した経済学者の一人と評価されており,たとえば,彼のいう労働および土地の物質的投入量によって決定される内在的価値は古典派経済学の自然価格を,商品貨幣論に立脚した正貨流出入メカニズムや流通速度の貨幣分析は 19世紀的な分析を,農業剰余の分析は重農学派を,おのおの十分予見させるものであった。
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