改訂新版 世界大百科事典 の解説
ガルガンチュアとパンタグリュエルの物語 (ガルガンチュアとパンタグリュエルのものがたり)
Gargantua et Pantagruel
フランソア・ラブレーの連作物語。5巻より成る。《第一之書ガルガンチュア》(1534)と《第二之書パンタグリュエル》(1532)は,父子2代の巨人王の誕生から成長期,遍歴修業,超人的武勲という中世伝来の騎士道物語の枠組みを踏襲しながら,その実は人間の尊厳と豊かな可能性,生きる喜びに目覚めたルネサンス人が,旧態依然たる現実の社会・文化との間に巻き起こす軋轢(あつれき)を,喜劇的風刺的筆致で描きつくす。《第三之書パンタグリュエル》(1546)は,王者パンタグリュエルの側近で知的道化の趣があるパニュルジュの結婚可否を軸として,巫女,占星学者,詩人,医師,神学者,哲学者,法官などを歴訪し,その意見をたたき多彩かつ博識な議論を交わす,いわば一幕喜劇の連鎖の趣があり,初期2作品に見られる歓喜の爆発や民衆的な哄笑,グロテスクなアクションに代わって近代的知性の自己懐疑・模索のドラマが展開される。《第四之書パンタグリュエル》(1552)と死後出版の《第五之書パンタグリュエル》(1564,偽作の疑いあり)とは,結婚可否の神託を求める長い航海,幻想的寓意的な島めぐりの物語となる。思想対立の深まりと異端追及の激化の渦中に執筆されたこの2作品には,むき出しの自己主張に代わって手のこんだ風刺と寓喩・暗喩が充溢し,作品の陰影を著しく増している。大胆な言葉の実験を含めて,フランス・ルネサンスの春と秋とを表現した大作である。
執筆者:二宮 敬
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報