改訂新版 世界大百科事典 「ガーツ山脈」の意味・わかりやすい解説
ガーツ[山脈]
Ghāts
インドの山脈。ガーツghāṭとはヒンディー語で〈階段〉を意味し,デカン高原の東西両縁の山地が,海岸平野から階段状にせり上がるところから,東ガーツおよび西ガーツと呼ばれる。西ガーツ山脈はインド半島の西海岸(マラバル海岸)沿いに,北はカンベイ湾に注ぐタープティー河口から南はコモリン岬まで約1600kmにわたって,ほとんど切れ目なく続く。山脈の西側は断層崖と思われる急斜面であるが,東側はデカン高原へ漸移し,山脈と呼ぶにふさわしくない地貌を呈する。ゴア以北は玄武岩質溶岩(デカン・トラップ)からなり,その水平構造に応じて形成された階段状の地形,つまりガーツ地形を示す。平均標高はおよそ900m。ゴア以南は花コウ岩,片麻岩,結晶片岩からなり,比較的なだらかな山頂をもつが,南になるほど高まってニールギリ丘陵のドダ・ベッタ(2594m),アナイ・ムディ(2695m)などがそびえる。アラビア海から吹き込む南西モンスーンは,この山脈に年間2500~5000mmの雨を降らすので,西斜面は厚い熱帯雨林に,風下側の東斜面は熱帯湿潤落葉林によっておおわれる。また,この多量の降雨によってゴーダーバリー川,クリシュナー川,カーベーリ川など,デカン高原上の大河が涵養される。ニールギリ丘陵の南にあるパールガーツの地溝は25kmの幅があり,古くから東西の海岸地方を結ぶ動脈として重視されてきた。東ガーツ山脈は,北はマハナディ川におこり,オリッサ,アーンドラ・プラデーシュ,カルナータカ諸州を通り,ニールギリ丘陵で西ガーツと合する。総延長1400kmにおよぶが,西ガーツと違っていくつかの山地に分断され,標高も600m前後と全般的に低い。年降水量は南部で750~1000mm,北部ではベンガル湾からの北東モンスーンの影響で1250~2000mmとなる。カーベーリ川やクリシュナー川が山地を貫流する所にダムが建設され,発電や広大なコロマンデル海岸平野の灌漑に利用されている。
執筆者:藤原 健蔵
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報