キム・バン・キェウ(読み)きむばんきぇう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「キム・バン・キェウ」の意味・わかりやすい解説

キム・バン・キェウ
きむばんきぇう / 金雲翹

ベトナムの詩人グエン・ズウ(阮攸)の作で、「金雲翹新伝」の略。初めは「断腸新声」と題したが、発刊(1800前後)にあたり改題した。現在では広く『翹伝』または『翹』とよばれている。原作は中国の青心才人の著『金雲翹伝(きんうんぎょうでん)』で、その翻案という意味で「新伝」を加えた。元来、この物語は、青心才人が『虞初新志(ぐしょしんし)』(余懐著)のなかに収めた短編『王翠翹伝(おうすいぎょうでん)』を換骨奪胎して長編小説に仕上げたもの。『翹』は、女主人公翠翹の美人ゆえの薄命を主題とし、才命相妬(さいめいそうと)を説き、恋人金重との邂逅(かいこう)、別離、売身、二度の妓女(ぎじょ)勤め、落籍、結婚、投身自殺未遂、金重との再婚を通して、阮攸の仏教観、儒教観、哲学(人生観)を展開したもので、3254行の韻文詩である。現代ベトナム語の豊富な表現力は、阮攸のこの『翹』に負うところがきわめて大きい。

[竹内与之助]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「キム・バン・キェウ」の意味・わかりやすい解説

キム・バン・キェウ(金雲翹)
キム・バン・キェウ
Kim Vân Kiêu

ベトナムの長編韻文詩。別題『金雲翹新伝』『断腸新声』。グエン・ズー (阮攸) Nguyên Du (1765~1820) 作。内容は中国の小説『金雲翹伝』 (青心才人作) を翻案した恋物語で,字喃 Chu Nôm (漢字応用の国字) 文学の最高傑作とされる。題名は,3人の登場人物,金重 Kim Trong,翠雲 Thuy Vân,翠翹 Thuy Kiêuの各1字をとったもの。才色兼備の女性翠翹が,家のために犠牲となって身を売り,恋人金重が旅で不在の間,青楼の妓女となり,人生の荒波に翻弄されるが,15年目についに金重に再会し,名のみの妻としての一生をおくる。翻案ではあるが,表現法においてすぐれ,ベトナム人の「心」を描いた作品として,多くのベトナム人に好まれている。学問的にも研究が進められ,邦訳もある。

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