日本で日本語の表記に用いる文字。(1)広義には,漢字,仮名,ローマ字その他の中で,言語政策上どの文字を公用のものとするのがよいか,という選択を行うときの対象となるもの(国語国字問題という場合の国字)。(2)日本独特の文字という意味を強調して,(a)仮名(片仮名,平仮名)を指す。(b)ローマ字に対して,漢字,仮名両者をまとめて指す(たとえば,キリシタン版の国字本というときなど)。(c)漢文に対して,仮名交じりに書き下して注するとき(たとえば,漢籍国字解など)。(d)本来の漢字に対して,日本で作り出された漢字に似た文字,つまり倭字(わじ),和製漢字を指す。漢字をおもに用い,仮名をその補助として併用する表記体をとるとき,新語,俗語,擬声擬態の語などで,漢字で書く習慣が固定していない語については,それらを漢字で表記しようとすると,万葉仮名を用いるか,当て字をするかの方法によらなければならない。冗長になることを避けるには,新字をくふうするのが上策と考えられた。江戸時代までに実用された国字で,一般人の目にも触れたのは,《節用集》の末書や往来の付録に見えるものから考えると,さして多くはなく,新井白石《同文通考》,伴直方(ばんなおかた)《国字考》などで学者の集成して論じたものを総計しても,150種にみたない。しかし平安時代前期の漢字字書《新撰字鏡》(しんせんじきよう)の挙げる小学篇字約400が,古い国字の例だといわれ,これには魚の名や植物の名にあたるものが多い。
執筆者:山田 俊雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
種々の意味に用いられる語で、大略次の用法がある。
(1)国語を書き表すのに用いる文字の総称。現代日本語では、漢字、平仮名、片仮名、ローマ字、算用数字などである。「国字問題」「国字改良」というときの「国字」はこの意味である。
(2)漢字に対して仮名をさす。和字ともいう。この用法は江戸時代が中心で、現在はあまり用いられない。
(3)中国でつくられた漢字に倣って、日本で新たに案出された文字。和製漢字ともいう。
以上のうち、普通には(3)の意味で用いられることがもっとも多い。これは、中国に存在しない事物や、通常の漢字では表現しにくい観念を示すためにつくられたものであり、「峠(とうげ)」「畑(はたけ)」「辻(つじ)」「凩(こがらし)」「凪(なぎ)」「躾(しつけ)」「鰯(いわし)」などがその例である。新井白石(あらいはくせき)は『同文通考』で81字を取り上げて国字とし、伴直方(ばんなおかた)(1789―1842)の『国字考』では126字をあげているが、国字であるか否かの認定がまだ不明確なものもある。
国字には、原則として「音」がなく「訓」のみが存在する(ただし、「働(はたらき)」には音「ドウ」があり、「鱇(コウ)」「腺(セン)」「鋲(ビョウ)」などのように「音」のみのものもある)。その構成法は、許慎(きょしん)の六書(りくしょ)でいえば、会意(構成要素を組み合わせて新しい観念を示す)によるものが大部分で、「神前に供える木」が「榊(さかき)」、「雨が下に落ちる」のが「雫(しずく)」、「山の上りと下りの境界」が「峠」、「木を枯らす風(几)」が「凩」になるのがその例である。
[月本雅幸]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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…しかし韓国でも漢字は漢語の表示にのみ使用し,朝鮮語を示すのには用いない。元来長い間漢字・漢文は朝鮮における正統な文字であり,文語であって,その国字諺文が15世紀に発明されてもその名の示すように,〈卑俗な文字〉であったのである。現在ではこの文字をハングル(大いなる文字)と呼んでいる。…
…表記手段として漢字を用いる(用いた)言語では,当然借用される字音の量も多く,その字音の自国語への適合ぶりには一定の規則性が現れ,結果として〈字音体系〉を成す(もちろんこの体系には,もとの中国語の音韻体系の反映がある)。日本の〈国字〉(中国には元来存在しない日本製漢字)の字音も,この字音体系に反しない形をとる(働(ドウ),鱇(カウ)等)。
[日本漢字音]
日本語での漢字の〈読み〉には,漢字音である〈音〉以外に〈訓(クン)〉がある。…
※「国字」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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