国字(読み)こくじ

日本大百科全書(ニッポニカ)「国字」の解説

国字
こくじ

種々の味に用いられる語で、大略次の用法がある。

(1)国語を書き表すのに用いる文字の総称。現代日本語では、漢字平仮名片仮名ローマ字、算用数字などである。「国字問題」「国字改良」というときの「国字」はこの意味である。

(2)漢字に対して仮名をさす。和字ともいう。この用法は江戸時代が中心で、現在はあまり用いられない。

(3)中国でつくられた漢字に倣って、日本で新たに案出された文字。和製漢字ともいう。

 以上のうち、普通には(3)の意味で用いられることがもっとも多い。これは、中国に存在しない事物や、通常の漢字では表現しにくい観念を示すためにつくられたものであり、「(とうげ)」「畑(はたけ)」「(つじ)」「凩(こがらし)」「(なぎ)」「躾(しつけ)」「鰯(いわし)」などがその例である。新井白石(あらいはくせき)は『同文通考』で81字を取り上げて国字とし、伴直方(ばんなおかた)(1789―1842)の『国字』では126字をあげているが、国字であるか否かの認定がまだ不明確なものもある。

 国字には、原則として「音」がなく「」のみが存在する(ただし、「(はたらき)」には音「ドウ」があり、「鱇(コウ)」「(セン)」「鋲(ビョウ)」などのように「音」のみのものもある)。その構成法は、許慎(きょしん)の六書(りくしょ)でいえば、会意(構成要素を組み合わせて新しい観念を示す)によるものが大部分で、「神前に供える木」が「(さかき)」、「雨が下に落ちる」のが「雫(しずく)」、「山の上りと下りの境界」が「峠」、「木を枯らす風(几)」が「凩」になるのがその例である。

[月本雅幸]


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精選版 日本国語大辞典「国字」の解説

こく‐じ【国字】

〘名〙
① 一国家を形成する言語社会で、伝統的に通用している文字。また、公用の価値あるものと認められ、採用される文字。
※解体新書(1774)凡例「原本符印、皆用其国字」 〔元史‐百官志・三〕
② 日本特有の文字の意。漢字に対して仮名(かな)を指す。
※鳩巣先生文集(1763‐64)後篇・一五・題本多佐渡守藤政信論治道国字書「当時上進之日、便於乙覧而取読、故更以国字録呈」
③ 日本で、漢字の構成法にならって作られた文字。たとえば、俤(おもかげ)・凩(こがらし)・峠(とうげ)・榊(さかき)・笹(ささ)・躾(しつけ)・辻(つじ)・閊(つかゆる)・鱈(たら)・鴫(しぎ)・麿(まろ)など。会意による構成が多く、音を欠くのが普通であるが、「働(どう)」のように一部を音符として音読するもの、「鮟鱇(あんこう)」のように形声で、訓のないものもある。和製漢字。倭字。和字。〔同文通考(1711‐16)〕

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「国字」の解説

国字
こくじ

日本製の漢字の意。和字ともいう。中国の漢字の字体にならって新たに字体をつくりだしたもの。「噺 (はなし) 」「凩 (こがらし) 」「峠 (とうげ) 」「榊 (さかき) 」など,多くは会意によるもので,訓はあっても音を欠くのが通例。ただし「働」のように「動」に類推して音 (ドウ) をもつものや,「腺 (せん) 」のように音しかないものもまれにある。「麿」 (←麻呂) のような合字も国字である。また,字形そのものはすでに中国に存在したが,日本においてまったく異なる意味で用いるようになったものをさすこともある。「」 (←よもぎ) などがその例。また,漢字に対してかなを国字ということもある。なお,国語国字問題の「国字」は上述のものとは関係がなく,一社会において公用と認められる文字,およびその用法をさす。

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百科事典マイペディア「国字」の解説

国字【こくじ】

(1)国語の表記に伝統的に用いられ,また公用と認められている文字。漢字平仮名片仮名。特に仮名を漢字に対して国字という場合もある。(2)中国にはなく,日本で作られた漢字。倭字(わじ)とも。榊(さかき),峠,(はたけ)など。訓のみで音がないのが普通である。

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デジタル大辞泉「国字」の解説

こく‐じ【国字】

その国の言語を表記するものとして通用もしくは正式に認可されている文字。
漢字に対して仮名をいう。
漢字の字体にならって日本で作られた文字。ふつう訓だけで音読みがない。「峠(とうげ)」「辻(つじ)」「躾(しつけ)」の類。

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世界大百科事典 第2版「国字」の解説

こくじ【国字】

日本で日本語の表記に用いる文字。(1)広義には,漢字,仮名,ローマ字その他の中で,言語政策上どの文字を公用のものとするのがよいか,という選択を行うときの対象となるもの(国語国字問題という場合の国字)。(2)日本独特の文字という意味を強調して,(a)仮名(片仮名,平仮名)を指す。(b)ローマ字に対して,漢字,仮名両者をまとめて指す(たとえば,キリシタン版国字本というときなど)。(c)漢文に対して,仮名交じりに書き下して注するとき(たとえば,漢籍国字解など)。

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世界大百科事典内の国字の言及

【漢字】より

…しかし韓国でも漢字は漢語の表示にのみ使用し,朝鮮語を示すのには用いない。元来長い間漢字・漢文は朝鮮における正統な文字であり,文語であって,その国字諺文が15世紀に発明されてもその名の示すように,〈卑俗な文字〉であったのである。現在ではこの文字をハングル(大いなる文字)と呼んでいる。…

【字音】より

…表記手段として漢字を用いる(用いた)言語では,当然借用される字音の量も多く,その字音の自国語への適合ぶりには一定の規則性が現れ,結果として〈字音体系〉を成す(もちろんこの体系には,もとの中国語の音韻体系の反映がある)。日本の〈国字〉(中国には元来存在しない日本製漢字)の字音も,この字音体系に反しない形をとる(働(ドウ),鱇(カウ)等)。
[日本漢字音]
 日本語での漢字の〈読み〉には,漢字音である〈音〉以外に〈訓(クン)〉がある。…

※「国字」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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