日本大百科全書(ニッポニカ) 「キリアン」の意味・わかりやすい解説
キリアン
きりあん
Jiři Kylián
(1947― )
舞踊家、振付家。チェコのプラハに生まれ、9歳でプラハ・ナショナル・シアターのバレエ・スクールに入学し、クラシック・バレエ、民族舞踊、グレアム・メソッド(M・グレアムにより考案され、背骨と骨盤を中心に、コントラクション(緊張)とリリース(解放)を通して内面を表現する方法)によるモダン・ダンスを学ぶ。15歳からプラハ音楽院で音楽の教育を受ける。1967年、奨学金を得て、ロンドンのロイヤル・バレエ・スクールに留学したときに、シュトゥットガルト・バレエ団のジョン・クランコにみいだされる。卒業後、シュトゥットガルト・バレエ団に入団し、75年までクランコの指導のもとでダンサー、振付家として活動する。73年からネザーランド・ダンス・シアターNetherlands Dance Theatre(NDT)で振付けを始め、78年同舞踊団の芸術監督に就任した。この年発表した『シンフォニエッタ』(音楽:ヤナーチェク)で世界的に注目され、その後、『忘れられた土地』(音楽:ブリテン、1981)、『結婚』(音楽:ストラビンスキー、1982)、オーストラリア先住民の踊りにヒントを得た『スタンピング・グラウンド』(音楽:チャベス、1983)、『堕(お)ちた天使』(音楽:ライヒ、1989)をはじめ、『ティアーズ・オブ・ラーフター』(1996)、『ウィングス・オブ・ワックス』(1997)、『ワン・オブ・ア・カインド』(1998)など、クラシックから現代音楽まで幅広い選曲で、鮮やかな作品をつくり続けている。その優れた音楽的感性と叙情性、斬新(ざんしん)な身体の動きから触発されたイマジネーションがつくりあげる作品は、早くからバレエとモダン・ダンスの動きを積極的に取り入れ、その創造的融合を基本方針としてきた舞踊団の素地があって初めて実現したといえるであろう。日本への関心も強く、『夢の時間』(音楽:武満徹、1983)、『輝夜姫(かぐやひめ)』(音楽:石井真木、1988)、東京バレエ団に振り付けた『パーフェクトコンセプション』(1994)などがある。キリアンは所属ダンサーを、肉体的にもっとも活躍期にあるメイングループのNDTⅠ、17歳から22歳までのNDTⅡ、40歳以上のダンサーによるNDTⅢという三つのグループに分け、それぞれのよさを生かした作品をつくっている。1990年の初来日以来、日本にも多くのファンをもつ。
[國吉和子]
『Allen Robertson & Donald Hutera『The Dance Handbook』(1988・Longman,U.K.)』▽『Horst Koegler『The Concise Oxford Dictionary of Ballet』(1991・Oxford University Press,U.K.)』▽『『ダンスマガジン――キリアンの世界』(1993・新書館)』