日本大百科全書(ニッポニカ) 「ライヒ」の意味・わかりやすい解説
ライヒ(Steve Reich)
らいひ
Steve Reich
(1936― )
アメリカの作曲家。ニューヨーク生まれ。1957年にコーネル大学哲学科を卒業。ホール・オーバートンHall Overton(1920― )に作曲を学び、58年から61年までジュリアード音楽学校で修業し、ついでミルズ・カレッジでダリウス・ミヨーらに師事した。63年音楽修士号取得。65年にテープ録音をリミックスした実験的な『イッツ・ゴナ・レイン』を発表し、66年にアンサンブルを結成して演奏活動も始める。クラシックやジャズの影響を受けている彼は、70年にアフリカで打楽器を学び、その後バリ島のガムランやヘブライ聖書の詠唱法なども研究した。80年代に入って『砂漠の音楽』(1984)など力作を発表した。短い楽句とリズムのカノン的な繰り返しと変化、重ねた音の微妙なずれなどから特異な効果をあげる彼の音楽は「ミニマル・ミュージック」とよばれ、ロック系ポピュラー音楽にも影響を及ぼしている。クロノス・クァルテットが録音した『ディファレント・トレインズ』で89年度グラミー賞の最優秀コンテンポラリー作曲賞を受賞した。
[青木 啓]
『小沼純一著『ミニマル・ミュージック』(1997・青土社)』▽『エドワード・ストリックランド著、柿沼敏江・米田栄訳『アメリカン・ニュー・ミュージック――実験音楽、ミニマル・ミュージックからジャズ・アヴァンギャルドまで』(1998・勁草書房)』
ライヒ(Wilhelm Reich)
らいひ
Wilhelm Reich
(1897―1957)
精神分析学者。オーストリア生まれのユダヤ人。ウィーン大学医学部時代にフロイトの講義を受け、精神分析の研究を目ざす。1923年オーストリア社会党に入党し、1928年には共産党に入党。マルクス主義と精神分析の結合を図る。1933年に『性格分析』『ファシズムの大衆心理』を出版。後者の著作は、労働者層や中産階級がなぜファシズム運動に参加したかという問題を、経済決定論をとるマルクス主義では説明できないと述べて、性・エネルギー経済論の側面から分析し、同年共産党から除名される。1934年オスロに亡命し、1939年にはアメリカに亡命。1941年敵性外国人の疑いで逮捕されるが翌1942年釈放。このころ、オーゴン(特殊な生物エネルギー)生命物理学とそれによる療法を唱え、1940年にオーゴン・ボックスorgone boxをつくるが、1954年アメリカ当局はその販売を禁止し、1955年には裁判沙汰(ざた)となる。1957年3月、法廷侮辱罪でコネティカット州の刑務所に一時的に投獄され、同年11月ペンシルベニアの連邦刑務所で心臓発作のため死亡した。
[田中 浩]
ライヒ(Ferdinand Reich)
らいひ
Ferdinand Reich
(1799―1882)
ドイツの物理学者、化学者。ベルンブルクの生まれ。ライプツィヒ、フライベルク、ゲッティンゲン、パリで学んだのち、フライベルク鉱山学校で1824~1866年視学官、1827~1860年物理学教授、1842~1856年理論化学教授を務めた。1863年助手のH・T・リヒターの協力を得て、フライベルク産の閃(せん)亜鉛鉱からインジウムを発見し、不純ながらその単離に成功した。地磁気の偏角、フライベルクの降雪量・降雨量の記録、地下深部の温度、地球の平均密度などの研究のほか、母国ザクセンへのメートル法の導入に寄与した。また、精錬の煙害を防ぐため、二酸化硫黄(いおう)の測定法を考案した。
[内田正夫]