クオンツ(読み)くおんつ(英語表記)quants

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クオンツ」の意味・わかりやすい解説

クオンツ
くおんつ
quants

金融・証券分野で、勘や経験ではなく、高度な数学・物理学を使って、市場動向や企業業績を分析・予測したり、投資戦略や金融商品を考案したりする手法、あるいはそれを行う数理分析専門家。「クオンティテーティブquantitative(数量的、定量的)」から派生した用語である。数学・物理学・工学の修士号以上の学歴をもつ者などが、量子力学、確率論・統計学、数理モデルコンピュータなどを駆使しながら、市場動向の分析・予測などを行うという特徴がある。クオンツは、市場動向を分析・予測して金融取引を支援する「クリスタルボール・クオンツ」と、デリバティブ(金融派生商品)などの商品設計や価格決定などを行う「アイボリータワー・クオンツ」の二つに大きく分けられる。また過去のデータや企業業績などを分析し、予測モデルを構築する人を「クオンツアナリスト」という。定量モデルによって銘柄の魅力度を判断し、コンピュータで数量的に運用する手法を「クオンツ運用」、その運用手法を使ったファンドを「クオンツファンド」、その手法で運用する投資信託を「クオンツ投信」とよぶ。

 1980年代にNASA(アメリカ航空宇宙局)がロケット打上げ計画を凍結したため、ロケット工学を専攻した数学者や物理学者が大量にニューヨークのウォール街の大手証券や金融会社に転職し、金融分野に理数的手法を導入したのがクオンツの起源とされる。数学者のブラックFischer S. Black(1938―1995)と経済学者のショールズらが金融工学を使って導き出したデリバティブの価格算定式(ブラック‐ショールズ方程式)で、ショールズが1997年にノーベル経済学賞を受賞し、デリバティブ分野やリスクマネジメントなど、さまざまな分野でクオンツが用いられるようになっている。ただしクオンツの分析・予測は万能ではなく、1998年にはショールズらが経営に携わったヘッジファンドのロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)が破綻(はたん)し、2007年から始まったサブプライムローン問題では大手金融機関が扱ったクオンツファンドが多額の損失を計上して2008年のリーマン・ショックを招く要因となった。

[矢野 武 2016年6月20日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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