日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘッジファンド」の意味・わかりやすい解説
ヘッジファンド
へっじふぁんど
hedge fund
投資家(個人、金融機関、年金基金など)から預かった資金を運用し、相場の上下変動にかかわらず収益を追求する投資ファンド。反対売買などを組み合わせることでリスクを回避(ヘッジ)しながら運用するのでこうよばれる。巨額資金を投機的に運用するヘッジファンドが多く、1997年のアジア通貨危機や2008年の世界金融危機などの元凶となったとされるが、世界的なカネあまりを背景にヘッジファンドへの資金流入が続いている。
独自の相場見通しによって株式、債券、外国通貨、商品などに投資し、空売りやデリバティブ(金融派生商品)取引など金融工学を駆使して相場の下落局面でも高収益をねらう。投資信託などと比べ運用者の報酬が高いという特徴がある。世界的なトレンドを分析して運用するグローバル・マクロ、相場の影響を極力避けて安定運用をねらうマーケット・ニュートラル、割安な銘柄を買い(ロング)、同時に割高な銘柄を空売り(ショート)するロング・ショートなどの手法がある。
1949年にアメリカ人投資家、ジョーンズAlfred Winslow Jonesがリスク回避型投資手法を開発したのが起源とされる。1980年代以降、100億ドルを超える巨額ファンドが登場。ジョージ・ソロスGeorge Soros(1930― )のクオンタム・ファンドQuantum Fundやノーベル経済学賞受賞者が設立にかかわったロングターム・キャピタル・マネジメントLong-Term Capital Management(LTCM)などが有名である。ユーリカヘッジEurekahedge(シンガポール)などヘッジファンドの運用成績を示す指標も数多くある。
ただクオンタムが1992年にイギリスのポンド防衛意図を打ち破り、2000年以降は欧米ファンドの円キャリー取引が円相場の攪乱(かくらん)要因となっている。1998年にLTCMが破綻(はたん)、クオンタムも整理に追い込まれるなど、必ずしも運用はうまくいっていない。金融危機を防ぐため市場に供給された過剰マネーがヘッジファンドに流入し、これがサブプライムローン問題などの金融危機を招くという悪循環が続いている。主要国首脳会議(サミット)や主要国財務相・中央銀行総裁会議などでヘッジファンドの情報公開、監督・規制強化が議論されているが、目に見える成果はあがっていない。
[矢野 武]