分析的方法によって企業内外の諸資料や諸情報を検討し、企業の財政状態および経営成績の良否を判断する手法をいう。その中心をなすのが、企業が作成し発表する財務数値の分析であることから、財務分析、財務諸表分析ともよばれ、また最近の経営分析では異なる企業経営の比較・分析が不可欠であるため、経営比較も同じ意味に用いられることが多くなってきている。
経営分析は、アメリカにおいて銀行業者が、融資先や投資先である企業の債務返済能力や財産状態の良否を知るために貸借対照表の提出を求め、これを詳細に分析したことに起源するといわれる。これは信用分析とよばれ、現在でも銀行の審査部で行われている。その後、投資家の立場からする企業の収益性や成長性を重視するような投資分析、国の産業行政運営の資料をつくるための経営分析などが行われるようになり、第一次世界大戦後には、企業内部者(管理者)の立場からする業務管理目的の詳細な数値を使用した原価分析や損益分岐点分析などへと発展した。さらに最近は、大規模企業内部の部門や事業部、関連会社の経営分析から国際間の企業比較までに及ぶとともに、連結財務諸表制度の導入とともに、個別企業のみならず企業集団(在外子会社も含む)全体の経営分析を行うことが必要不可欠になってきている。
[佐藤宗弥]
経営分析は種々の観点から分類できる。まず、だれに役だつ情報を提供するか、という分析主体の種類に応じて、大きく外部分析と内部分析に区分される。外部分析とは、企業外部の利害関係者のために行われる分析であり、債権者が主体となる信用分析、投資家や取引業者が主体となる投資分析、証券アナリストが主体となる証券分析、税務当局による税務分析、公認会計士や経営コンサルタントが主体となる監査分析・経営診断などのほか、各官庁が法に基づいて行う各種の業務・財務調査に付随する分析があげられよう。内部分析とは、企業内部の経営管理者の経営管理に役だつ情報を提供するために行われる分析であり、外部分析に比べると資料が入手しやすいため、より現実的かつ精細なデータに基づく分析が行われる。
次に分析目的別の区分が考えられるが、これによると収益性分析、流動性分析、財務安全性分析、生産性分析などに分けられる。収益性分析は、企業が投下した資本に対してどれだけの収益をあげているかをみるもので、利益と投下した資本との割合を示す資本利益率、売上高に占める利益の割合を示す売上高利益率、資本の回転速度を示す資本回転率などの分析が中心をなしている。流動性分析は企業の短期的な支払能力をみるための分析で、流動資産の流動負債に対する割合を示す流動比率、当座資産の流動負債に対する割合を示す当座比率などの分析が中心となる。財務安全性分析は企業の長期にわたる安全性(堅実性)をみるもので、固定資産が自己資本でまかなわれている割合を示す固定比率、負債の自己資本に対する割合を示す負債比率などの分析が中心となっている。生産性分析は企業の生産性および社会性をみるもので、産出量と労働投入量との割合を示す労働生産性、単位労働時間当りの付加価値を示す付加価値生産性などがよく知られている。
次にいかなる業務分野を対象にするかによって、財務分析、原価分析、非財務分析に区分される。財務分析では、企業と外部との取引により生ずる経済価値変動の良否が対象とされ、他方、原価分析では、企業内部の生産活動に伴う経済価値変動が対象とされる。非財務的分析としては、たとえば社会的責任達成度合いを表すような各種指標、従業員福祉責任達成度合いを表すような各種指標、技術力、企業イメージ、合理化・省エネ・目標管理など各種管理活動の成果測定などがあげられる。
[佐藤宗弥]
経営分析の方法は、分析・比較すべき指標に何をとるかによって、実数法、比率法、趨勢(すうせい)法などに分けられる。実数法は、企業数値をそのままなんら加工せずに列挙し、比較する方法である。外部分析にあっては、公表財務諸表上の勘定科目数値がこれに相当する。内部分析では、各部門別の実際原価データなどがこれに相当するが、ときには標準原価や予算数値も分析の対象に加えられる。比率法は、二つの実数間の割合をとって、2変数間に存在している因果関係の大小をもって経営状況の良否の判定資料とするものである。比率法はさらに関係比率法と構成比率法とに分けられる。関係比率法は、利益と資本の比率のように項目相互の関係を比率で示して分析する方法であり、構成比率法は、基準項目を100として、その内訳項目の占めている割合を百分率で示し、項目相互の関連を比較・分析するものである。趨勢法は、基準年度の数値を100として、それ以降の年度の数値を指数で表示し、その変動を分析するものである。
また、企業数値の比較方法には期間比較と相互比較とがある。期間比較は、同一企業の数値を異なる時点または期間について、いわば時系列的に比較・分析する方法で、自己比較ともいう。相互比較は、異なる企業間の同一時点または同一期間の数値を比較・分析するものである。
[佐藤宗弥]
『松本雅男・青木茂男著『最新経営分析』(1982・千倉書房)』▽『古川栄一著『経営分析』3訂版(1980・同文舘出版)』▽『横浜市立大学会計学研究室編『管理会計論』(1979・同文舘出版)』
財務諸表を中心とする財務情報や企業内外の諸情報を用いて,企業活動の適否を吟味したり企業資本を評価すること。財務諸表分析ともいう。分析目的により,信用分析,投資分析,内部管理分析などに分類することができる。アメリカでは,19世紀に萌芽が認められ,その後企業規模の拡大,金融市場と証券市場の発達,会計制度の標準化を背景に徐々に整い,第1次大戦前後に確立し,第2次大戦後さらに発展した。日本ではこのアメリカの影響が強い。
(1)信用分析は,金融制度の拡充を背景に信用調査の手段として発達し,その後社債格付けや倒産予測にも使われるようになってきた。信用分析では,企業の支払能力や債務の弁済可能性を検討するため,企業の財務要因や人的・技術的要因,市場・産業の経済要因などが分析される。とくに財務要因の分析は財務分析ともいわれ,実数法や比率法などを用いて収益性,流動性,回転率などが調べられる。信用分析では,一般に流動比率(流動資産÷流動負債)などの流動性指標や資金運用表が重視されるが,継続して活動する企業にとって支払能力の源泉は収益力であるから,収益性の分析は欠かせない。多くの比率などを総合する場合,ウォールの指数法のように比率にウェイトづけをするのが一般的な方法であるが,統計手法とコンピューターによるデータ処理技術の発達により,多変量解析による分析と総合が可能になり,今日,社債格付け分析や倒産予測分析などにこの手法がとり入れられている。(2)投資分析は,歴史的には古く,アメリカで19世紀の鉄道業の発展と第1次合併運動のなかから生まれ,第1次大戦前後に一応の成立をみたのち,第2次大戦後いっそう発展した。投資分析では,基本的には企業や証券の評価が対象となるが,そのほかにも資産構成と資本構成の均衡,負債による〈てこの効果(レバレッジ効果)〉と財務リスクの関係などが問題にされる。従来は営業リスクの評価があいまいであったため,資本還元率などを用いた企業や証券の評価は不完全であったが,ポートフォリオ理論(〈資産選択理論〉の項参照)の出現により,リスクが証券理論に組み入れられ,評価がより現実的になった。その結果,証券価格と財務情報との関連が分析できるようになり,会計情報の株価への影響が数多く実証的に確かめられている。(3)内部管理分析は,管理会計の一環として,製造業の規模拡大を背景に,アメリカの鉄道業での経験を生かし20世紀に入って出てきたもので,第2次大戦後,広く普及した。企業活動の計画と業績評価のための分析であって,資本利益率を中心とする比率連鎖(デュポン・チャート),自己資本利益率を基軸とした比率体系,損益分岐点分析,資本予算,標準原価による原価分析などが用いられている。
信用分析や投資分析は,一般に企業外部の利害関係者による分析,すなわち外部分析であるのに対し,内部管理分析は,経営管理者による分析で,内部分析である。経営分析はまた,貸借対照表を中心とした静態分析と損益計算書を中心とした動態分析に分類されることもある。実証的・帰納的方法が重視されるのが経営分析の特徴である。
執筆者:国村 道雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報
…財務会計論は,(a)簿記論,(b)財務諸表論,(c)原価計算論,(d)会計監査論等から構成されている。また管理会計論は,(e)原価計算論,(f)予算統制論,(g)経営分析論,(h)内部監査論等を内容としている。端的にいうならば,財務会計論は会計士会計学として,また管理会計論は経営者会計学として,それぞれ特徴づけることができる。…
※「経営分析」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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