日本大百科全書(ニッポニカ) 「クシスミクイウオ」の意味・わかりやすい解説
クシスミクイウオ
くしすみくいうお / 櫛炭食魚
[学] Howella parini
硬骨魚綱スズキ目クシスミクイウオ科に属する海水魚。北海道釧路(くしろ)から岩手県沖、千島(ちしま)列島南部のほかハンコック海山の周辺海域に分布する。体は細長く側扁(そくへん)し、第1背びれ起部付近でもっとも高く、第2背びれと臀(しり)びれの基底部後端で急激に低くなる。尾柄(びへい)部はきわめて細長い。目は大きく、その背縁は頭部の背縁に達する。上顎(じょうがく)の後端は目の前3分の1下に達する。上下両顎歯は小さい円錐歯(えんすいし)で、1列に並ぶ。下顎歯は上顎歯よりやや大きい。鋤骨(じょこつ)(頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨)と口蓋骨には歯がない。眼窩(がんか)の前後の縁辺に短く、基部が広い棘(きょく)がある。前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)は鋸歯(きょし)状で、およそ20本の弱い棘があり、先端がわずかに鰓膜(さいまく)の後縁を越える。主鰓蓋骨に4本の棘があり、第1棘は他の棘から離れる。第2棘~第3棘は互いに接近し、基部で癒合する。第3棘は先端で二叉(にさ)し、第4棘はもっとも小さい。下鰓蓋骨には7本の鋭い棘があり、最上の棘はもっとも強くて長い。間鰓蓋骨には隅角(ぐうかく)部に3本の棘があり、最上の棘はもっとも強くて大きい。そのほかに後側頭骨や上鎖骨にも小さな、弱い棘がある。鱗(うろこ)は強い櫛鱗(しつりん)で、後縁に2列の小棘が不規則に並ぶ。鱗ははがれにくい。側線有孔鱗数は46~53枚。背びれは2基で、両ひれは広く離れる。第1背びれは8棘、第2背びれは1棘9軟条からなる。臀(しり)びれは第2背びれと対座し、3棘7軟条。胸びれは伸長し、後端は臀びれの起部を越える。尾びれは弱くて深く二叉し、その基底の上下の前にじょうぶな棘が露出する。体色は全体に暗褐色。体長は約10センチメートルにしかならない小形種。水深約300~700メートルに生息する。エビ漁船などの引網、底引網、中層トロール網で混獲される。和名は鰓蓋部にある多数の鋭い棘に由来する。
本種はこれまでパーシクティス科(旧スズキ科。Percichthyidae)、ホタルジャコ科Acropomatidae、ヤセムツ科Epigonidaeなどに分類されていたが、頭蓋骨、眼下骨、担鰭骨(たんきこつ)(ひれの基部にある、鰭条を支える骨)などの多くの骨格的な特徴に基づいて、2007年にロシアの魚類学者プロコフィエフArtem Mihaylovich Prokof'evによってクシスミクイウオ科Howellidaeに入れられた。本種は下鰓蓋骨に1本の棘があり、前鰓蓋骨の棘は顕著でないことで、同科に属するトゲスミクイウオと区別できる。
[尼岡邦夫 2022年2月18日]