改訂新版 世界大百科事典 「クレサン」の意味・わかりやすい解説
クレサン
Charles Cressent
生没年:1685-1768
フランスのレジャンス様式からルイ15世様式初期にかけての代表的な家具師,彫刻・金工家。18世紀の家具カタログに名が載っている数少ない家具師の一人。アミアンの彫刻家の息子として生まれ,父から彫刻技法を,家具師の祖父から指物師法を学ぶ。1714年ころパリに出てサン・ルカ・アカデミーの彫刻家の会員に推挙され,その後A.C.ブールのライバルで,オルレアン公フィリップの家具師ジョゼフ・ポアトゥーの工房に入り,19年彼の死後未亡人と結婚,工房を継承しオルレアン公の家具師となった。クレサンの家具の特色は明るい茶褐色の木材による化粧張りに彼自ら成形・鋳造し鍍金を加えた精巧なブロンズ表装を飾るところにある。23年の組合法では家具師は装飾用金物の製作を禁じられていたが,彼はこの法律を犯しパリの裁判所から違反をとがめられたが,常にオルレアン公の保護を受けていた。彫刻家と金工家を兼ねたクレサンのブロンズ表装は造形の大胆さと生命感に富み,竜,キューピッド,鳥などのモティーフが豊富に用いられることが特色である。ロンドンのウォーレス・コレクション蔵の壁時計はその傑作。また,家具においても機能よりも装飾を重視した。たとえば,同コレクション所蔵のコモードに取りつけたブロンズ製の竜の金具では,その湾曲した後尾が上の引出しの把手に,アカンサスの葉が下の引出しの把手になっている。彼の作品の人気が高まると,フランスの王室だけでなく,ポルトガルの王室やバイエルン選帝侯など諸王侯からの注文が殺到し,彼の工房は60年代まで活気を呈した。彼はラファエロ,ティツィアーノ,ルーベンス,ホルバインの絵画や美術品の収集家でもあったが,1748年の破産によって競売に出された。この頃からクレサンの家具は,豪華なブロンズ表装に代わって,ルイ15世様式の華麗な寄木細工が多用されるようになった。
執筆者:鍵和田 務
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報