色,木目の異なる木片を組み合わせて模様を表した細工のこと。家具の表面,室内の壁面,扉の表面などを装飾する技法の一つ。これには二つの技法がある。一つは木材の表面に浅い穴をあけて,そこに色の異なる木片をはめこんで模様をつくる方法で,インタルシアintarsiaとよび最も古い技法である。他の一つは17世紀から18世紀にかけて流行した精巧な技法で,色,木目の異なる木片を薄い板にはめこんで模様のあるパネルをつくり,それを装飾しようとする表面に接着させるもので,マルケトリmarquetrie(フランス語)と呼んでいる。この寄木細工をつくるには,色,木目の異なる薄い板を重ね合わせ,その上に模様を描いた紙をはりつけ,紙の図柄に沿って切断し,切断された上の木片を下の板に組みこんで寄木パネルをつくる。
寄木細工は古代エジプトやギリシア,ローマでもすでに装飾として用いられていた。ヨーロッパでは15世紀にイタリアに現れ,初めは〈タルシアtarsia〉,後には〈インタルシア〉という名で流行した。格子や複雑な幾何学文様が主流で,ベネチアではカッソーネ(櫃)の装飾に,フィレンツェではカッソーネのほかに衣装戸棚や壁板などの装飾に用いた。とくにポンテリBaccio Pontelliの製作したパラッツォ・ドゥカーレ内のストゥディオロの寄木細工は,半開きの戸棚やその中の本などすべてが寄木細工で作られ,イリュージョニスティックな効果をあげている。16世紀にはドイツのフレットナーPeter Flötner(1485ころ-1546)がイタリアの精巧な寄木細工をニュルンベルクやアウクスブルクに導入した。フランスではシャルル8世がイタリアの寄木細工師を招いてイタリアのインタルシアをフランスに普及させた。17世紀後期には宮廷家具師A.C.ブールは花柄の精巧な寄木細工を家具装飾に取り入れた。イギリスではチャールズ2世の時代に花模様の華麗な寄木細工が簞笥や衣装戸棚の表面装飾として流行した。ウィリアム・アンド・メアリー時代には海藻模様やアラベスク模様も流行した。18世紀になるとイギリスでは寄木細工の人気は落ちたが,逆にフランスではロココ時代の貴族の趣向に合致して,その製作技術は最高水準に達した。宮廷家具師J.F.エバンやJ.H.リーズナーの家具作品は寄木細工の傑作といってよい。ドイツの家具師D.レントゲンは油絵の表現を取り入れて,精緻な絵画的表現による寄木細工を家具装飾に導入した点で注目された。イギリスでは建築家R.アダムによって新古典様式による寄木細工の装飾が推進された。アメリカでは18世紀末から19世紀前期にかけて,アメリカン・アンピール様式の家具に寄木細工の装飾が流行した。なお,日本における寄木細工については〈箱根細工〉の項を参照されたい。
執筆者:鍵和田 務
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
寄木細工は装飾技法の一つで、木材の色や木目(もくめ)の違った多数の小片または木板を、おもに幾何学的な図案によっていろいろな文様や形に配列し、これをほかの木板の上に貼(は)り付けたり、埋め込んだりする細工をいう。弘化(こうか)年間(1844~48)にはすでに始まっていたようである。箱根細工が有名だが、小田原や箱根地方は古くから木工細工、挽物(ひきもの)の名産地であり、そのような背景から寄木細工は生まれたと思われる。
一時中断していたが、近年になって手芸として、装身具・手箱・雲(うん)版などがつくられるようになった。母体には、白を表すにはアオハダ、ミズキなど、黒はクロガキ、神代(じんだい)カツラなど、黄はニガキ、ハゼなど、赤はホオノキ、アカクズなどの木材が使用される。
[秋山光男]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…現在は寄木,象嵌,挽物,組木などを総称して箱根細工という。寄木細工は弘化年間(1844‐48)にはじまるといい,色合いの異なる木地を寄せ合わせて幾何学的な単位模様をつくり,これをさらに集めてにかわづけした種木(たねき)を特殊な手がんなで削って〈づく〉とし,小箱などの表面装飾としたものである。模様の種類には市松,麻の葉,卍つなぎなどがある。…
…19世紀中期以後は主役をなす木材はなく,家具の使用目的に応じて多種多様な木材が使われるようになった。 木製家具の美的価値を高めるためには,古来からいろいろな装飾技法が採用されてきたが,そのおもな装飾技法は,彫刻,挽物,寄木細工,象嵌,化粧張り,塗装,金箔付けなどである。(1)彫刻carving 〈切込彫chip carving〉〈浅浮彫bas‐relief〉〈高浮彫high‐relief〉〈透し彫〉などがある。…
※「寄木細工」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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