日本大百科全書(ニッポニカ)「破産」の解説
破産
はさん
債務者が経済的に破綻(はたん)して、その弁済能力をもっては、総債権者に債務を完済することができなくなった状態に対する法的手段として、強制的にその者(破産者)の全財産を裁判所の選任する破産管財人が管理換価して、総債権者に公平な金銭的満足を与えることを目的とする裁判上の手続をいう。多数の債権者が競合する場合に弁済に充当すべき資産が不足するときは、特別の権利保護の方法が必要となるのであって、破産手続は、この要請に対応するものである。このような手続を規律するために、破産法(大正11年法律第71号)が制定されたが、同法は2004年(平成16)に全面的に改正された(平成16年法律第75号)。
[内田武吉・加藤哲夫]
破産手続開始の決定
破産手続は、原則として債権者または債務者から、債務者の居住地などの地方裁判所に破産手続開始の申立てをしたとき(破産法4条~7条、15条以下)に開始される。裁判所は、まず費用を予納させ(同法22条)、必要に応じて保全処分など(同法24条以下)をしたうえで、原則として民事訴訟法にのっとって審理し(破産法13条)、破産手続開始の原因がないと認めるときは申立てを棄却し、破産手続開始の原因があると認めたときは破産手続開始の決定をする(同法30条以下参照)。破産手続開始の決定と同時に裁判所は破産管財人を選任し、債権届出(とどけいで)の期間、財産状況を報告するための債権者集会の期日、債権調査期間などを定めてこれらの事項を公告し、所定の通知および破産手続開始の登記を嘱託しなければならない(同法32条、257条、258条。なお、登録については同法262条)。
破産手続開始後の手続
債務者は、破産手続開始の決定と同時に破産者となり、破産財団所属財産に関して管理処分の権能を失う(破産法34条、78条1項)ほか、居住地を離れることの制限(同法37条)、引致(同法38条)などの処置を忍受し、説明義務(同法40条)、重要財産開示義務(同法41条)を負うなど、身上に種々の拘束を受けることになる。破産者が破産手続開始後に自らの事業や労働などによって取得した財産の処分は自由である(自由財産)が、破産手続開始の当時所有していた財産は破産財団を構成し、破産管財人が裁判所の監督の下で管理処分を行うとともに、その占有管理にあたることとなる(同法34条1項、75条、78条1項、79条)。
破産管財人は、破産手続開始の当時破産者と相手方の双方がともに履行を終えていない双務契約を解除しまたは履行を求めることができる(同法53条)。その他破産手続開始前後にわたって破産者のなした法律行為の効力などについては特別の規定(同法47条~51条)によって定められている。破産手続開始前の原因に基づいて生じた破産者に対する財産上の請求権は破産債権となり(同法2条5項・6項、97条以下)、債権者は所定の期間内に債権を届け出て、裁判所書記官はこれに基づいて破産債権者表を作成することとなる(同法115条)。
届出のあった破産債権の存否などについて、調査が行われなければならない。調査は、原則として、所定の債権調査期間内に届出のあった債権の存否やその額などについての破産管財人の認否、届出破産債権者の異議の有無による。破産管財人が届出破産債権を認め、または届出破産債権者の異議がなければ、届出の通り破産債権は確定する(同法124条1項)。破産管財人が届出のあった破産債権を認めずまたは他の届出破産債権者から書面による異議のあったときは、異議が述べられた破産債権者は、破産管財人または異議を述べた者を相手として、査定申立てをすることができる(同法125条1項)。なお、破産管財人が認めずまたは他の届出破産債権者から異議を述べられた破産債権が、執行力ある債務名義または終局判決などを有する有名義債権であるときは、破産管財人または異議者は、その破産債権者を相手として破産者がすることのできる訴訟手続によってのみ異議を主張することができる(同法129条1項)。
債権の調査が終わると、破産管財人は破産財団の財産について換価を行う(同法184条)。その過程では、破産者が破産手続開始前に財産減少などの行為をしたときは、否認権を行使して財産の回復を図り(同法160条以下)、第三者から取戻権の行使があったときは、破産財団のなかから破産者に属さない財産を別離して取戻権者に財産等を返還する(同法62条~64条)。また、破産財団のなかから財団債権を随時に弁済する(同法2条7項、151条)。
配当、破産手続の終了
破産管財人は以上の手続の途中でも配当表を作成して、適宜その破産財団を各債権者の債権額の割合に応じて中間配当することができ(破産法209条以下)、最後に残った配当財団のなかから、裁判所の定める破産管財人の報酬(同法87条)を差し引いた残額を債権額の割合に応じて債権者に最後配当をし(同法195条以下)、またその後に配当にあてるべき財産を生じたときは追加配当をする(同法215条)。配当が終わると、破産管財人の計算報告を目的とする債権者集会(同法88条4項)終了後、または計算報告についての異議申立ての期間(同法89条2項)が経過したときは、裁判所は破産手続終結の決定をして、その旨を公告する(同法220条)。これにより破産手続は終了する。破産手続が終了する場合には、以上のほか破産財団の不足、総破産債権者の同意などによる破産手続の廃止(同法217条、218条)がある。
[内田武吉・加藤哲夫]
免責・復権
破産手続は、全債務の完済のためには足りない資産を換価して、総破産債権者に対しその債権額の割合に応じて弁済することを目的とした手続であるので、破産債権者は全額の弁済が受けられないことを前提としている。破産手続が終結した後に破産債権の残額について、破産者の破産手続開始後に取得した財産に対して破産債権者の権利行使を認めると、破産者の経済的再起は不可能になるおそれがある。そこで、1952年(昭和27)に英米法体系の破産制度にある破産免責の制度が旧破産法に導入され(旧破産法366条ノ2~366条ノ20)、それは現行法に引き継がれている(破産法248条以下)。
この制度では、破産者に一定の不誠実な行動のない限り、破産者の申立てにより裁判所は免責許可の決定をする(同法252条1項)。免責許可の決定が確定すると、破産者は破産債権者に対する残額債務についての責任を免れる(同法253条1項本文)。しかし公益的見地から、租税、不法行為に基づく損害賠償義務、雇用関係に基づく給料債権などは免責されないし(同法253条1項但書)、破産免責の効力は破産者の保証人などの債務についても影響を及ぼさない(同法253条2項)。
また、破産手続開始の決定があると破産者は一定の公的資格につくことを制限される。それらに関しては、たとえば民法第847条3号・第852条、信託法第56条1項3号、公証人法第14条、弁護士法第7条5号、公認会計士法第4条4号、弁理士法第8条10号、国家公務員法第5条3項1号などの規定がある。持分会社については、その社員は破産によって当然に退社となるし(会社法607条1項5号)、破産法上の犯罪を犯し有罪判決を受けた後一定の期間を経過していない者は株式会社の取締役となることができない(会社法331条1項3号)。また、取締役が破産手続開始の決定を受けたときはその地位を喪失する(民法653条2号)。しかし、破産という一事だけで破産者に対する公的資格その他を制約することは、破産者が再起を図るうえで障害となろう。そこで、1952年に、旧破産法において破産免責とともに、復権の制度が導入された(旧破産法366条ノ21~373条)、それは現行法にも引き継がれている(破産法255条以下)。破産免責許可の決定の確定などにより破産者は当然に復権し(同法255条1項)、また、破産債権全額につき弁済などの方法により責任を免れた場合には、復権の申立てにより復権の決定を得ることができる(同法256条1項)。
なお、破産に至る前の段階において破産を防止し、債務者の経済的再起を容易ならしめる制度として、個人、法人を問わず民事再生法(平成11年法律第225号)による民事再生手続があり、また株式会社については会社更生法(平成14年法律第154号)による更生手続がある。
[内田武吉・加藤哲夫]
『加藤哲夫著『法律学講義シリーズ 破産法』(2009・弘文堂)』