クロイシモチ(読み)くろいしもち(その他表記)black cardinalfish

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クロイシモチ」の意味・わかりやすい解説

クロイシモチ
くろいしもち / 黒石持
black cardinalfish
[学] Apogonichthyoides truncata

硬骨魚綱スズキ目テンジクダイ科コミナトテンジクダイ亜科マンジュウイシモチ族に属する海水魚。伊豆大島、千葉県館山(たてやま)湾から九州南岸の太平洋側、九州北岸、長崎県などの日本海側、朝鮮半島南東岸、台湾、中国など西太平洋に広く分布する。体は著しく高く、側扁(そくへん)し、体高は体長の約41%。頭は大きく、およそ体高に等しい。吻長(ふんちょう)はおよそ眼径に等しい。口が大きく、上顎(じょうがく)の後端は目の後縁下付近に達する。上主上顎骨はない。上下両顎は小さい歯の歯帯を形成し、犬歯がない。前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)の縁辺は鋸歯(きょし)状。鰓耙(さいは)は上枝に2本、下枝に8本。頭部と体の鱗(うろこ)は櫛鱗(しつりん)。側線はよく発達し、尾柄(びへい)まで達する。側線有孔鱗数は26枚。背びれ胸びれ基底上方から始まり、2基でよく離れ、第1背びれは7棘(きょく)、第2背びれは1棘9軟条で、第1背びれの第4棘は第3棘より長い。臀(しり)びれは第2背びれ起部下方から始まり、2棘8軟条。胸びれは15軟条。腹びれは長くて臀びれ起部を越える。尾びれの後縁は角が丸みをもった截形(せっけい)(後縁が上下に直線状)。各ひれの縁辺は丸みを帯びる。体は一様に暗黒褐色で、個体によって体側に数本の不鮮明な細い横帯がある。腹びれは黒色。背びれと臀びれは暗色、胸びれと尾びれは透明。胃と腸は淡色。内湾の泥底の転石の周りに単独で潜み、大きな群れをつくることはない。多毛類、小さな底生の無脊椎(むせきつい)動物を食べる。産卵期は7月から9月で、雌雄は対(つい)で産卵し、雄は口内で卵を保育する。市場では雑魚(ざこ)として取り扱われ、練り製品の原料にされる。最大体長は10センチメートルほどになる。

 本種はカクレテンジクダイ属に属する。長く慣習的にコミナトテンジクダイ属(旧、テンジクダイ属)Apogonが使用されてきたが、2014年(平成26)に、魚類学者の馬渕浩司(まぶちこうじ)(1971― )らがDNAの分析結果に加えて、前鰓蓋骨の腹縁が骨質であることなどの形態的特徴から、カクレテンジクダイ属へ移動した。本属は胃と腸が淡色であることで、コミナトテンジクダイ亜科のうち、これらが黒色のツマグロイシモチ属Jaydiaやスジイシモチ属Ostorhinchusと区別できる。なお、イシモチは高知県和歌山県などで使われているこの類の呼称に由来する。

[尼岡邦夫 2022年1月21日]

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