アヤメ科サフラン属Crocusの球根植物。別名ハナサフラン。クロッカスの仲間は地中海地方に約80種を原産するが,大別して春咲きと秋咲きの2群に分けられる。春咲きのクロッカスの名で園芸品種として栽培されているもののほとんどは,クロッカス・ベルヌスC.vernus(L.)Hillという品種から改良されたものである。3月上旬のまだ葉が十分伸びないうちに花が咲く。花は4~6cmのワインカップ形で,紫,白,黄のほか紫と白の絞り咲きがある。弓なりの細い葉は,花が終わったあとも伸びつづけ,20~30cmになって,夏には枯れる。代表品種はマンモス・イェロー(花は黄色),ジャンヌ・ダルク(白),リメンブランス(紫),フラワー・レコード(紫),キング・オブ・ザ・ストライプド(白に紫縞),ツイン・ボール(白に紫縞)。秋咲系の種の代表としてサフランがある。8月から9月にかけて植え付けると,藤紫色の大輪花を10月に開花させる。オレンジ色のめしべは昔から薬用として有名である。ごく早咲きで,寒さの厳しい2月から3月上旬にかけて咲くものは,冬咲系とされる。代表種のクロッカス・クリサンサスC.chrysanthus Herb.は品種数も多く,多花性。クロッカス類は冬の日当りと,排水のよい所であればどこでもよくできる。翌年の球根は母球の上に生ずるので,多めに5~6cm覆土する。春咲種は9~10月に植え付ける。クロッカスは茎が短縮肥大した球茎で1球から数個の芽が出て,普通7~8cm球で3~4輪の花をつけ,分球も多い。5月下旬に掘り取るが,庭植えの場合3~4年そのままにしても花が咲く。また水栽培も簡単にできるし,ボール状にした水ごけに球根を埋め込んでもおもしろい。
執筆者:水野 嘉孝
ギリシア神話によればクロッカスは,スミラクスSmilaxというニンフに恋い焦がれて死んだ美青年クロコスKrokosが変身した花とも,カウカソス山に縛られたプロメテウスの血から生じた花ともいう。ローマ人たちは浴槽や寝床や宴の席にこれをまき,香りを楽しんだが,当時はサフランを指す名であったらしい。恋愛,魔術,さらには死とも結びつく花だが,一方春先に開花するので希望や青春の象徴ともされた。イギリスへは12世紀のヘンリー1世の時代に十字軍の手で持ち込まれたとされ,女官たちが染髪料としてこれを濫用したため,禁令が出されたこともあるという。この花はまた神経鎮静薬,健胃薬として用いられ,痛風にも効くとされる。
執筆者:荒俣 宏
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アヤメ科(APG分類:アヤメ科)の秋植え球根草。地中海沿岸や小アジアに約80種分布する。耐寒性は強く、花壇、鉢植えによい。クロッカス属は分類学的には六つの節に分けられるが、園芸的には春咲き種と秋咲き種に大別される。日本では、秋咲き種をサフランsaffron、春咲き種をクロッカスとよんでいる。球茎は扁平(へんぺい)で、径2~4センチメートル。葉は線形で、開花時あるいは開花後に伸長させ、長さ約10センチメートル。花は径5~7センチメートルの杯形で、1株に2~7個つける。花期は2月下旬から3月上旬。植え付けの深さ、用土などの栽培環境が悪いと、蛇腹のように伸び縮みする収縮根を出し、子球が移動することもある。現在の園芸品種は、ベルヌスC. vernus (L.) Hillが中心となってほかの原種と交雑してつくられたもので、主要品種は、紫青色系のニグロボーイ、アーリー・パーフェクション、リメンブランス、白色系のジャンヌ・ダーク、スノーストーム、黄色系のマンモス・イエロー、ゴールディ・ロックス、ラージ・イエローなどがある。絞り系では灰白色に紫の縞(しま)が入るストライプト・ビューティ、ストライプト・ドーナードがある。
繁殖は分球により、10月ころ、日当りのよい砂質壌土に深さ5、6センチメートルに植え付ける。翌年6月、花が終わり葉が黄ばんできたら株を掘り上げ、葉付きのまま乾燥し、その後、球根を分けるなどして調整し貯蔵する。なお家庭では球根を掘り上げず、3~4年据え置き栽培すると、じゅうたん状に咲き、美しい。
[平城好明 2019年5月21日]
クロッカスの栽培は、薬用としてのサフランに始まる。古代には貴重で、柱頭を乾かした粉は香料、調味料、染料、薬用のほか、高貴な女性の眉(まゆ)染めやマニキュアにも使用され、紀元前15世紀以前のクレタ文明は、サフラン貿易の利潤によって栄えたとの見方もある。イギリスには14世紀に伝えられ、以後18世紀に至るまで、イギリス南部にサフラン産業が続いた。花卉(かき)としてのクロッカスは、1597年にイギリスの博物学者ジェラードが5品種、ついで1629年にパーキンソンが27の春咲き品種と四つの秋咲き品種を記録した。それが1700年には48品種に増加した。
[湯浅浩史 2019年5月21日]
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…観賞用に広く栽培されるアヤメ科の球根植物(イラスト)。もともとは薬用または染料用に利用するために栽培された。小アジアまたは南ヨーロッパの原産と考えられているが,確かなことはわからない。花茎は高さ10cm程度。茎頂に直径3cmほどの香りのよい淡紫色の花をつける。花期は10~11月。花被片は6枚。おしべは3本で,葯は大きく黄色でよく目だつ。花柱は3本に分かれ,鮮やかな橙赤色。赤い花柱,黄色の葯と淡紫色の花被のコントラストが美しい。…
※「クロッカス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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