クロッカス(読み)くろっかす(英語表記)crocus

翻訳|crocus

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クロッカス」の意味・わかりやすい解説

クロッカス
くろっかす
crocus

アヤメ科(APG分類:アヤメ科)の秋植え球根草。地中海沿岸や小アジアに約80種分布する。耐寒性は強く、花壇鉢植えによい。クロッカス属は分類学的には六つの節に分けられるが、園芸的には春咲き種と秋咲き種に大別される。日本では、秋咲き種をサフランsaffron、春咲き種をクロッカスとよんでいる。球茎は扁平(へんぺい)で、径2~4センチメートル。葉は線形で、開花時あるいは開花後に伸長させ、長さ約10センチメートル。花は径5~7センチメートルの杯形で、1株に2~7個つける。花期は2月下旬から3月上旬。植え付けの深さ、用土などの栽培環境が悪いと、蛇腹のように伸び縮みする収縮根を出し、子球が移動することもある。現在の園芸品種は、ベルヌスC. vernus (L.) Hillが中心となってほかの原種と交雑してつくられたもので、主要品種は、紫青色系のニグロボーイ、アーリー・パーフェクション、リメンブランス、白色系のジャンヌ・ダーク、スノーストーム、黄色系のマンモス・イエロー、ゴールディ・ロックス、ラージ・イエローなどがある。絞り系では灰白色に紫の縞(しま)が入るストライプト・ビューティ、ストライプト・ドーナードがある。

 繁殖は分球により、10月ころ、日当りのよい砂質壌土に深さ5、6センチメートルに植え付ける。翌年6月、花が終わり葉が黄ばんできたら株を掘り上げ、葉付きのまま乾燥し、その後、球根を分けるなどして調整し貯蔵する。なお家庭では球根を掘り上げず、3~4年据え置き栽培すると、じゅうたん状に咲き、美しい。

[平城好明 2019年5月21日]

文化史

クロッカスの栽培は、薬用としてのサフランに始まる。古代には貴重で、柱頭を乾かした粉は香料、調味料、染料、薬用のほか、高貴な女性の眉(まゆ)染めやマニキュアにも使用され、紀元前15世紀以前のクレタ文明は、サフラン貿易の利潤によって栄えたとの見方もある。イギリスには14世紀に伝えられ、以後18世紀に至るまで、イギリス南部にサフラン産業が続いた。花卉(かき)としてのクロッカスは、1597年にイギリスの博物学者ジェラードが5品種、ついで1629年にパーキンソンが27の春咲き品種と四つの秋咲き品種を記録した。それが1700年には48品種に増加した。

[湯浅浩史 2019年5月21日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クロッカス」の意味・わかりやすい解説

クロッカス
Crocus

アヤメ科の球根植物。本来はサフラン属の属名であるが,通常はハナサフランなど観賞用に栽培される一群の種類の総称として使われる。いずれも小型の球根植物でヨーロッパ中南部から北アフリカに原産し,主としてオランダで改良されて多くの園芸品種がつくられた。最も代表的なハナサフラン C. vernusは南ヨーロッパ原産で,押しつぶしたような扁球形の球根から,鞘に包まれた松葉状の葉を出し,春早く紫,白などの6弁のらっぱ状の花を上向きにつける。日が当ると開花し夕方にしぼむ。同じく春咲きで,他にさきがけて黄色の花をつけるキバナハナサフラン C. aureusは Dutch crocusとも呼ばれ,日本でもごくなじみの深い花である。原産はギリシアから小アジアで,オランダで改良された。

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