庭園を装飾するために一、二年生草花、宿根草花、球根草花、そのほかの装飾草花、木本類、花木類などをある意匠のもとに配植したものをいう。広い意味では野草なども入る。したがって、一般には花壇というとできあがった材料を植え込んだ毛氈(もうせん)花壇だけを考えがちであるが、規模によっては実生(みしょう)や稚苗から育てる場合もある。
庭園や室内に花壇をつくる場合には、その場所ならびに環境にどのような樹木、下草、芝、地被植物があるか、池や敷石、石組みなどの形、色、大きさ、デザインがどういう状態であるか、建物のどちら側に位置するか、和風か洋風か、地形はどうなっているかなど、造園上の条件を十分に考慮してデザインしなければならない。
[川上幸男]
一般には、住居に接近した平地に一段高く花床を設けて、ボタン、シャクヤク、キクなど観賞植物を植えたのが、花壇の始まりと考えられる。江戸時代作庭の岡山後楽園のボタンの花床などが想像される一つである。その起源はさらに古く、平安時代の壺(つぼ)や前栽(せんざい)などにさかのぼることができる。壺は坪のことで庭をさしたが、いまでも京都御所の萩壺(はぎつぼ)などは代表的なものといえよう。前栽は庭園内に植えられた草花や低木類のことで、その起源は嵯峨(さが)天皇(在位809~823)のころではないかといわれている。前栽合(あわせ)という催しは古くから中国で行われていた草花の優劣を競うもので、わが国では901年(延喜1)に最初に催されたという。初めのうちは秋の野草などが植えられ、しだいに春や夏の草花も加えられた。なお、花壇ということばは江戸時代、寛文(かんぶん)年間(1661~73)に出た園芸書『花壇綱目』に初めて使われた。
外国での花壇の発祥は日本よりもさらに古く、西洋庭園の発展とともに庭を装飾する意味でかなり華美な形で生まれたものである。花壇という概念が社会に生まれたときには、すでに西洋では毛氈花壇(カーペット・ベッド)と境栽花壇(フラワー・ボーダー)の形式ができていた。それが現代に至るまでいろいろな形で発展してきている。
フランスのルイ王朝のベルサイユ宮殿の庭のフランス式庭園にみられるような毛氈花壇などは、現在でも世界各地で模倣されている。現代の花壇はなるべくシンプルな線を使い、単純な図形で庭の中の位置づけや構成を考えたものが多く、また、定形的なものではなく無定形のなかに美を追求しようという傾向が強くなりつつあり、狭いわずかの空間にも応用していこうというねらいが強い。空間を有効に使おうということで、ボックス、ポール、アーチ、フェンス、トレリス(格子垣)、パーゴラ(格子状のトンネル)などを使った立体化はつる植物の開発進展によっていっそう盛んになりつつある。
[川上幸男]
大別すると平面花壇(ドワーフ・フラワー・ベッド)と立体花壇(トール・フラワー・ベッド)とに分けられる。
[川上幸男]
矮性(わいせい)の草花、木本材料を植え、平面図案をみるような形の花壇。多少の高低があっても差し支えない。モザイク模様のように模様式に高さをそろえて低くできている花壇を毛氈花壇といい、道に沿って帯状に細くつくったものを縁どり花壇、またはリボン花壇という。
[川上幸男]
比較的草丈の高いものを植えた花壇。高低があっても差し支えなく、立体的に空間を活用している花壇である。建物とか道に沿ってできている境栽花壇、芝生内・玄関前など四方から眺められるように中心に従って高いものを植えていく寄植え花壇と、建物の壁面、フェンス、トレリス、ポール、アーチなどの立体面、それにベランダ、バルコニー、テラス、窓辺、サンルームなど室内と屋外との重なり合ったスペースでの花壇とがある。
次に応用的に種類をあげてみよう。
(1)趣味別 和風、洋風、折衷式。
(2)用途別 観賞本位、切り花向き、野菜、日陰利用、斜面利用など。
(3)植物別 一~二年生草花、宿根草花、球根草花、観葉植物。
(4)生態別 山地、海浜、湿生、乾生、水生、アルカリ土など。
(5)四季別 春、夏、秋、冬。
(6)場所別 家庭、学校、工場、駅前、病院、屋上、広場、橋のたもと、室内、窓下など。
(7)特定の草花別 チューリップ、シャクヤク、ダリア、キク、ハナショウブ、パンジー、ツツジ、山野草、サボテンなど。
(8)特殊花壇 時計花壇、花鉢、日めくり花壇など。日めくり(カレンダー)は花を使って月日を日々表すもの。
花壇のデザインは無限にあるが、現代住宅をはじめとして現代建築に相応するデザインでなければならない。自然曲線の多い和風の庭の中では不整形の環境に調和した形で、キク、シュウカイドウ、オダマキ、シオン、シラン、ヘメロカリスなどを植えていくとよい。
縁どりは植物材料として、クサツゲ、リボングラス、ハクチョウゲ、ロニセラ、ボックスウッドなどがあり、死物材料としてブロック、れんが、大谷石、鉄平石、スレート、丸太などがある。
[川上幸男]
草花の色は花弁などが主であるが、葉、つぼみ、萼(がく)、茎、枝などの色合いも緑を中心として変化があり、全体として大きな役割を果たしている。花弁の色でいうと、黄とオレンジのように互いに近似した色を配するよりも、黄と赤、青とオレンジのような配色がよく、白が入るとなお引き立つし、建物、工作物、施設の色との対比、調和もたいせつである。季節のカラーとしては、春は紅、オレンジ、ピンク、夏は青、紫、白、秋はオレンジ、黄、赤、冬は赤2に白1の割合などで考えるとよくまとまる。色ばかりでなく花や葉のもっている量感を対比させることもたいせつである。
花の咲く時期、期間なども草花を選ぶときのだいじな条件である。1か月でも空白にすると寂しいものになる。狭いスペースにはいろいろな種類を過剰に集めないで、なるべく必要最小限の種類に限定しておくとうまくいく。花壇に使う花は一つ一つはあまり問題ではなく、全体として集合美をとらえるわけであるから、見ごたえのあるものにするには環境全体としての組合せを重視する。
[川上幸男]
花壇の管理は、中耕、施肥、摘芯(てきしん)、摘花、整枝、病虫害防除、植え替え、育苗などを考慮して長期にわたる観賞計画を目標としたものにする必要がある。
年間、月間の予定作業計画をたて、予想開花期表とにらみあわせて週間の作業実施目標をたてる。基本的に問題になるのは植え付け間隔と前後作の組み込みで、種類、品種間による広がり率を把握することがたいせつであろう。これは土質によっても差異が出るので注意を要する。横の広がりと生育高とがかならずしも均一にならないので、施肥、整枝によって調節するか、思いきって植え替えをする。品種の特性をよく調べて後作の種類を選ぶことがたいせつである。たとえばパンジーは普通種は春咲きが多いが、小輪は5、6月でも長く咲くので、普通種が咲いている春のころに小輪種の小苗を間に植えておくと引き続き観賞できる。球根のグラジオラスを植え込んでもよい。さらに宿根草を組み入れると、植え替えはずっと楽になり、四季の変化も生まれてくる。別途にプランターなどで予備苗をつくり、植え替え転換期に活用することも計画に盛り込むとよい。
[川上幸男]
『川上幸男著『緑の設計』(1979・有明書房)』▽『安田勲著『花壇作りと花卉栽培』(1976・養賢堂)』
花壇という言葉は江戸時代の園芸書《花壇綱目》(1681)に初めてあらわれた。その後キクやシャクヤクなどを配植した場所や,キクやサクラソウなどの鉢植えの草花を陳列する場所をさすようになり,現在では庭園の一部に形や色で意匠をまとめ花を植える場所を花壇と呼んでいる。都市の発達とともに,公園や公共の広場や道路沿い,学校,遊園地,個人住宅の庭に,四季を通じて人目をたのしませる目的でつくられる。ヨーロッパでは貴族の庭園の造成に伴って,局部的に季節の花を植え込んだのがその始まりだろう。
花壇の種類はその様式によって円形花壇,長方形花壇,星形花壇,日本式花壇,洋式花壇など,主体となる花壇材料によって一・二年草花壇,宿根花壇,球根花壇,水生植物花壇,高山植物花壇,バラ花壇,キク花壇,ボタン花壇など,また見る時期によって春花壇,夏花壇,秋花壇などの呼び方があるが,一般には次のような種類にわけられる。
(1)もうせん花壇 模様花壇ともいわれ,公園や広場,庭園の芝生の中に設けられる平面的な花壇で,草丈の低い草花を色彩的にデザインして植えこまれる。多くは絵模様,幾何学的図案が描かれる。中世ヨーロッパの宮廷などで発達したもので,周囲の建物や植込みとよく調和し俯瞰(ふかん)するときに最も美しいが,材料の育成,購入,植付けには経費がかかる。また,時に応じてこれを植え替えることもあるので,ある程度ツゲやハクチョウゲなど刈込小樹木を意匠的に補うこともある。
(2)沈床花壇 サンクガーデンsunk gardenとも呼び,平面の単調を破るために花壇の位置を60~80cm低く設け,周囲から見下ろすようにした花壇。植付けの形式は左右相称的でもうせん花壇式で,多くは中央に盛り上げた部分をつくり,四方に小道を設ける。降雨で水がたまらないように,排水の工作が必要である。
(3)水栽花壇 池やプールを利用して長方形や円形などを組み合わせた場所に,スイレン,ハナショウブなどの水草を植え込んだ庭園の一部ともみるべき花壇。
(4)境栽花壇 建造物や生垣などを背景にして小道に沿って設けた帯状の花壇。歩くにつれて次々と花が展開するように,リズムと変化をもたせて低花木,宿根草,球根類,一・二年草などを配植する。この花壇は幅の広い場合は後方にタチアオイやオイランソウなど高性のものを,手前には草丈の低いものを植えるのがよい。幅が狭く距離の長い場合はリボン花壇と称して,リボン状に比較的種類を少なく統一のある配植をする。
(5)寄植花壇 公園や広場などの中央に周囲から眺められるように設けた円形,方形,多角形の花壇で,中心部を高くして植物,塑像などを置き,その周囲をとりまくように草花を配植する。ときにはキクやバラだけを寄植えすることもある。
(6)時計花壇 傾斜地に時計の形に似せて四季おりおりの草花を植え込んだ花壇。公園や遊園地の一隅,丁字路,大階段の踊場などに設けられる。時計の針は斜面の裏の電動室で自動的に動くが,草花が針になぎ倒されないように矮性種を選び,また開花期の長いものを植えつける。
→花時計
(7)移動花壇 円形,方形,長方形,三角形の大型のプラスチック製のプランターやコンクリート製大鉢などに草花を植え,これを歩道に並べたり,広場などに配列して構成する花壇をいう。家庭では玄関先やテラス,ベランダなどに利用できる。窓辺を飾るウィンドボックスもこの一種とみなしてよい。
(8)壁花壇 建物,塀などの壁面を草花で飾る花壇は,鉢を掛ける場合と壁面に空隙(くうげき)を設けて植える方法とがあるが,前者が多い。鉢が乾きやすいので灌水方法にくふうを要すること,乾燥に強い植物を選び,ロックガーデンに準じた管理をする必要がある。
家庭では庭の面積が狭いことが多いので,公園や広場のようなスケールはとれない。庭全体が花壇であるように四季を通じて咲く草花や花木を配植する。春に咲く花は多いので,春花壇だけに主力を注ぐと夏~秋はさびしくなってしまう。芝生の中にいわゆる一坪花壇を設け,もうせん花壇をつくることはできるが,そのデザインはなるべく簡単にして花色も5色以下にとどめるほうが効果があがる。草花の種類も数少なくとどめないと手入れもわずらわしく,咲きそろっても迷彩的に陥るおそれがある。労少なく効果を大とするにはじょうぶで開花期の長いものを選び,リュウノヒゲや煉瓦で縁取りを行い,ときには花壇の中に寒水石や玉砂利などを敷いて,意匠の効果をあげるとよい。
花壇をつくるにはまず方眼紙上にスケールを決めて植付けのデザインをするが,図案を重んじて極端な図柄とならないようにする。花色や草丈の調和を考えて苗を植え込むが,はじめ10cm平方に納まる苗でもパンジーやマリーゴールドなど1~2ヵ月後にはその数倍に広がるので株間を広く植えつける。また発育に応じて茎葉の間引きや切戻しも必要である。春花壇の球根類は開花期が短く掘上げまでが長いので,これを考慮に入れてその間にワスレナグサやデージーなどの草花を植えておく。
花壇には苗を植える場合と,直接たねをまいたり,球根を植える方法とがあるが,前者は別の場所で苗を育成しておくのがよい。肥料はシーズンごとに元肥を与える。
執筆者:浅山 英一
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