翻訳|manicure
美手法。ラテン語のマニュmanu(手)と、キュラーレcurare(手当て)とが合成されたことばで、本来の意味は手の手当てをすること。手全体の美容をいい、美爪(びそう)、手のマッサージなど、手の化粧法すべてが含まれる。同様にペディキュアpedicureも、pedi(足の意を表す接頭辞)との合成語で、足の美爪、マッサージ、化粧など足全体の美容をいう。とくにペディキュアは、足のたこ、まめなどの治療をも含めていうこともある。
マニキュアの歴史は非常に古く、古代エジプト時代に植物のヘンナ(ミソハギ科)の花汁を用いて爪(つめ)を染め、ギリシア・ローマ時代には上流階級の婦人の間で行われた。中世に入りその技術も一段と進歩したといわれるが、現在のマニキュアが広く世界に流行したのは、原料のエナメルペイントがつくられた以後で、1920年代からである。
日本でも、平安時代、ホウセンカの花弁とホオズキの葉をもみ合わせて爪を赤く染めることがあって、ホウセンカは一名「つまくれない」ともよばれた。江戸時代になると爪に薄く紅をさすこともみられ、それを「爪紅(つまべに)」といった。一種のマニキュアと考えてもよい。
ネイル・エナメルの原料は、合成樹脂に溶剤としてアルコール、それに可塑剤、着色剤を加えたものであり、色の種類も、パール、ピンク、赤などに加え、金、銀、黒、緑、紫など多彩である。
[横田富佐子]
〔1〕ファイルで爪の形を整える。〔2〕せっけん液の微温湯に手指を浸し、〔3〕キューティクル・リムーバーでマッサージする。〔4〕プッシャーで上爪皮(爪の根元の皮膚)を押し、〔5〕ニッパーで切り取る。〔6〕せっけん液で手指を洗い、〔7〕バッファーでよく磨く。〔8〕手全体のマッサージを行い、〔9〕初めにベースコートを、次にネイル・エナメルを、そして最後にトップコートを塗り、半月を残して、爪を美しく見せるようにていねいに手早く塗る。〔10〕ネイル・エナメルがはみ出したところは、除光液で拭(ふ)き取る。
なお、爪の健康上、1年以上エナメルを塗り続けていると、爪のためによくない。ときには自然に放置させておくことも必要である。
また、爪が欠けたり、形が崩れたりしたときに行う「義爪(ぎそう)法」がある。薄いセルロイド状の義爪を、ネイル・ラッカーを使って爪に貼(は)り付けて補正する。
[横田富佐子]
手の指のつめを美しくみせる化粧。本来,マニはラテン語manusで手,キュアは同じくcuraで手入れの意味である。つめの外皮(甘皮)を軟らかくして取り除きやすくする弱アルカリ性溶液のキューティクル・リムーバーcuticle remover,つめの表面をセーム皮(鹿皮)で磨くときつける粉末ネイル・ポリッシュnail polish,つめの表面に艶と色調をそえるネイル・エナメルnail enamel,ネイル・エナメルを取り除く溶剤で除去(光)液ともいうエナメル・リムーバーenamel remover,除去液の連用によって失われた油分や水分を補い,つめのもろくなるのを防ぐネイル・クリームnail creamなどのマニキュア用製品がある。さらに専門的にネイル・エナメルの密着性をよくするため最初に塗るベース・コートやエナメルの硬さと光沢を増すために最後に塗るトップ・コート,タバコやインキなどの汚れを漂白するネイル・ブリーチなどがある。また,足のつめに塗るのをペディキュアpedicureといい,慣用語としてネイル・エナメル(ネイル・ラッカー)のことをマニキュアと呼びならわしている。
中世ヨーロッパにおける〈ハンマムhammam〉と呼ばれた美容院ではマニキュアをしていたと記録にあるが,これはネイル・クリームなどを塗ってつめの手入れをしていたもので,現在のようなニトロセルロースを使ったネイル・エナメルの流行は1920年代に入ってからである。日本でつめに紅を塗る風俗は記録では平安末期の《雍州府志》にまでさかのぼるが,もともとは中国から伝わった風俗で,中国では唐の楊貴妃は手足のつめが紅色で,宮廷の女性たちがそれをまねたのが爪紅(つまべに)の始まり,とする伝説がある。ホウセンカの花をついてその赤い汁を塗ったらしいことが諸書に見えている。日本でもホウセンカをツマベニとかツマクレナイと呼ぶ地方がある。江戸時代初期の《女鏡秘伝書》(1650)には(つめに)〈べにもいかにもうすくさしたまふべし〉とある。洋風のマニキュアが行われるようになったのは昭和に入ってからである。
執筆者:高橋 雅夫
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