グラウ(読み)ぐらう(英語表記)Shirley Ann Grau

日本大百科全書(ニッポニカ) 「グラウ」の意味・わかりやすい解説

グラウ(Shirley Ann Grau)
ぐらう
Shirley Ann Grau
(1929―2020)

アメリカの作家。ニュー・オーリンズ生まれ。デビュー作は、南部黒人の生活を描いた短篇(たんぺん)集『黒い王子・他短篇集』The Black Prince and Other Stories(1954)。長編第一作は、自然の脅威に曝(さら)されながらもメキシコ湾小島にしがみつき、貧乏と沈滞感のうちに生きる人々を描いた『きびしい青空』The Hard Blue Sky(1958)。続いて、ウーマン・リブということばなどなく、女性の自立は考えられなかった時代の南部で、望まぬ妊娠と中絶を余儀なくされた娘の反抗と成長の物語『コリシアム通りの家』The House on Coliseum Street(1961)を経て、3作目の小説『家を守る人々』The Keepers of the House(1964/邦題名『ハウランド家の人々』)でピュリッツァー賞受賞。これは、南部の旧家ハウランド家の当主ウィリアムと2番目の妻でインディアンの血を引く黒人マーガレットの結婚生活と、ウィリアムの孫娘アビゲイルの野心的な白人政治家との結婚生活を描くなかで、白人家父長制特権階級社会における家の存続、人種偏見、女性蔑視といった南部の典型的なテーマを浮き彫りにした秀作である。また、最後には自立したアビゲイルが伝統あるハウランド家を守る、フェミニスト小説でもある。そのほか、同様のテーマを引き継いだ『コンドルは去る』The Condor Passes(1971)、『愛の証』Evidence of Love(1977)、短篇集『風は西に変わりて』The Wind Shifting West(1973)、『9人の女』Nine Women(1985)、そして奴隷制の貧困から人間性の復権を目ざした黒人の長い歩みを描いた『道を歩く人々』Roadwalkers(1994)がある。

[佐川愛子

『猿谷要訳『ハウランド家の人々』(1966・弘文堂)』


グラウ(Jacinto Grau)
ぐらう
Jacinto Grau
(1877―1958)

スペイン劇作家バルセロナ出身。商業化した演劇の芸術的品位回復を理念に、伝統的主題と近代的主題の合体を試みたが、非日常的用語と技巧にすぎる古風な対話のせいもあって、当時のスペイン演劇界や一般観客には理解されなかった。主要作品は、主題を史詩(ロマンセ)から得た『アラルコス伯爵』(1907)、聖書に求めた『放蕩(ほうとう)息子』(1918)、セルバンテスの古さとピランデッロの新しさを結合させた『ピグマリオンの親方』(1921)。ほかにドン・ファン伝説を土台にした『真面目(まじめ)な色事師』(1930)など。ブエノス・アイレスで没。

[菅 愛子]

『笠井鎭夫訳『ピグマリオンの親方』(弘文堂・世界文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「グラウ」の意味・わかりやすい解説

グラウ
Grau, Jacinto

[生]1877. バルセロナ
[没]1958. ブエノスアイレス
スペインの劇作家。代表作は『ピグマリオンの親方』 El señor de Pigmalión (1927) 。主題を多く聖書,伝説,歴史に求め,スペインよりもむしろフランスやラテンアメリカで評価されている。

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