改訂新版 世界大百科事典 「ロマンセ」の意味・わかりやすい解説
ロマンセ
romance
14世紀から15世紀にかけてスペインに生まれ,現在も受け継がれている民間伝承の物語詩,あるいはその詩形式。吟遊詩人によって伝播した中世の武勲詩(叙事詩)は,14世紀末から15世紀になるとジャンルとしての生命力を失い,しだいに忘れ去られることになるが,これらの武勲詩の中で民衆の心を強くとらえていた部分だけが全体の筋から遊離して人々の記憶に刻みつけられ,それが繰り返されたり,変形されたりして新たな様式の詩,ロマンセが生まれてきた。その集成をロマンセーロromanceroと呼ぶ。上述の過程を経て生まれたスペインの伝統的なロマンセのほかに,アーサー王と円卓の騎士,シャルルマーニュ(カール大帝)のスペイン遠征,あるいは〈辺境もの〉と呼ばれるモーロ人(イスラム教徒)とキリスト教徒の戦闘を題材としたものなどがあるが,成立年代によって,古ロマンセと新ロマンセに分類するのが普通である。古ロマンセは1550年以前に流布していたもので,作者不詳,口承性,断片性を特徴とし,一般にロマンセという場合,狭義ではこれを意味する。新ロマンセは16世紀後半より17世紀にかけて作られた。大部分は有名な詩人の手になるものであるが,現代のガルシア・ロルカらの作品も広くここに含めている。8音節の詩行からなり,偶数行のみが脚韻をふむロマンセという詩形式こそ,スペイン文学が生み出した最も独創的な文学様式の一つである。
執筆者:牛島 信明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報