日本大百科全書(ニッポニカ) 「ピグマリオン」の意味・わかりやすい解説
ピグマリオン(バーナード・ショーの喜劇)
ぴぐまりおん
Pygmalion
イギリスの劇作家バーナード・ショーの五幕喜劇。1912年作。音声学者ヒギンズは、ロンドンの貧しい花売娘エライザの、ひどいことばを矯正して、貴婦人として社交界に売り出す。題名は、古代ギリシア伝説の、自分のつくった像にほれ込むキプロスの王様の名前だが、この劇では恋愛とならぬのがショーらしいところで、そのため長い「あとがき」がつけてある。この喜劇は、1938年にゲイブリエル・パスカルのプロデュースによって映画になり、1956年にはアメリカでミュージカル『マイ・フェア・レディ』となって長期興行記録をつくり、以来、各国で上演された。ただし、ミュージカルでは、結末がロマンチックなハッピー・エンディングになっている。
[菅 泰男]
『倉橋健訳『ピグマリオン』(『ショウ名作集』所収・1966・白水社)』
ピグマリオン(ギリシア神話)
ぴぐまりおん
Pygmalion
ギリシア神話のキプロスの王。象牙(ぞうげ)でつくった女の像に恋をしてしまったピグマリオンは、アフロディテに祈ってその像に生命を与えてもらう。そして生きた人間の女となったその彫像との間に娘パフォスをもうけた。パフォスは、アフロディテ信仰で有名なキプロスの都市パフォスの創建に関連する人物であり、キプロスのあらゆる文化の移入者・創始者であるキニラスの母とする説もある。またアポロドロスによれば、ピグマリオンの娘メタルメの婿がキニラスであるという。ピグマリオンと彫像の女の話は、とくにオウィディウスの『転身譜』で広く知られた。なお、同名異人にシリアのティロス王ピグマリオンがおり、彼は妹ディドの夫を殺して財産を奪ったという。これはウェルギリウスの『アエネイス』で扱われている伝説である。
[伊藤照夫]