日本大百科全書(ニッポニカ) 「ケティオサウルス」の意味・わかりやすい解説
ケティオサウルス
けてぃおさうるす
cetiosaur
[学] Cetiosaurus oxoniensis
竜盤目竜脚形類(亜目)竜脚類(下目)ケティオサウルス科Cetiosauridaeに属する恐竜。発見当初は巨大な背骨がクジラのものと似ていると思われたので、属名は「クジラトカゲ」の意味でつけられた。かなり大形で、全長約15メートルとされる。背骨には重量を軽くするためのくぼみ(側腔(そくこう))が存在していた。このくぼみは、竜脚類すべてに共通してみられる特徴である。側腔は、進化した種類ではよく発達して複雑なものとなっているが、本属ではくぼみの程度が少なく、かなり密な構造をしていたので、体重が相当あったのかもしれない。歯はスプーン型でカマラサウルスCamarasaurusのものに似ており、竜脚類としては中位の長さの頸(くび)をもち、背骨は大きくて頑丈であった。頸椎(けいつい)と胴椎の棘(きょく)突起は2分岐せず、尾はあまり長くない。背骨と腰をつなぐ仙椎骨は4個しかなく、前肢は後肢よりやや短い。このような特徴から、ケティオサウルスは原始的で特殊化の進んでいない竜脚類とみなされる。進化した竜脚類は、ケティオサウルス科の形態を原点として発達したように思える。たとえば椎骨を比較してみると、ブラキオサウルスBrachiosaurusなど、より進歩した竜脚類では、体重を支えるのに、えぐれた脊椎(せきつい)を備えていたが、ケティオサウルスでは、がっしりと重いつくりである。ブラキオサウルスでは、小さめの椎体に、神経突起と関節突起の発達が際だって目だつ。ケティオサウルスはイギリス各地のジュラ紀中期、約1億6800万年~1億6500万年前の地層から報告されている。産地は、ジュラ紀当時は海岸域や小さな湖あるいは潟であったらしい。そういうところには多くの動植物が繁栄・繁茂していた。化石に残された病変に、いろいろな種類の関節炎から引き起こされたものがある。もし椎骨上方の棘突起が冒されれば、新しい骨が広がって成長し、椎骨の関節面だけでなく全体の輪郭さえ不明瞭(ふめいりょう)となり、二つの椎骨がいっしょに融合する。ケティオサウルスのある標本では、尾椎がお互いに融合するまでには至っていないが、凸凹になり、すり減った、程度の軽い関節炎の証拠が観察されている。この標本は前肢・胴・尾などとともに、ロンドンの自然史博物館に展示されている。
[小畠郁生]