改訂新版 世界大百科事典 「ケルズの書」の意味・わかりやすい解説
ケルズの書 (ケルズのしょ)
Book of Kells
アイルランドのダブリンの北西約60kmにあるケルズの旧修道院付属教会堂に伝わった中世初期の豪華な大型福音書装飾写本。大きさは約33cm×24cmで,340葉を数える。テキストは《ウルガタ》に基づくアイルランド・タイプに属し,冒頭に共観表,福音書記者伝などが付随する。各福音書には記者像あるいはその象徴および大装飾文字ページが先行し,その装飾はアイルランド,イングランド北部,スコットランドの,いわゆるアイルランド・サクソン系の写本(6世紀末~9世紀末)の典型をなす。この地域に伝統的ならせん文や動物組紐文を多用し,人間像などの有機的表象も抽象的装飾原理に従わせる,この系統の写本の一般的傾向を示す。他方,大陸の影響下に説話場面や植物モティーフを加え,動物や人間の図像を多く取り入れ,高価なラピスラズリの群青のほか,白,赤,黄,緑,ピンク,パープルなど豊かな色彩を駆使している。一般に800年ごろアイオナIonaで制作中,バイキング侵攻に際してケルズに運ばれたとされる。現在,ダブリンのトリニティ・カレッジ図書館蔵。
執筆者:岸本 雅美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報