改訂新版 世界大百科事典 「ケーララ」の意味・わかりやすい解説
ケーララ[州]
Kerala
インド南西端の州。マラバル地方ともいう。面積3万9000km2。人口3184万(2001)。州都はトリバンドラム。地形は西から,(1)海岸砂丘列,(2)潟湖・後背湿地,(3)沖積平野,(4)ラテライト化した低い丘陵,(5)西ガーツ山脈の急峻な西斜面と並ぶ。5月末から5ヵ月間にわたって南西モンスーンが吹きつけ,3000mm以上の年降水量をもたらす。そのため(5)は熱帯常緑樹に覆われている。主作物は(1)ではココヤシ,(3)では米,(4)ではタピオカ,カシューナッツ,(5)ではゴム,コショウ,コーヒーと変化する。
ケーララはインドの周縁的位置にあるため,歴史上外来王朝に服属することは少なかった。インド洋をめぐる海上交通の要衝を占めるうえに,香料類,象牙,ビャクダン・シタンなどの唐木類を特産するので,ここに成立した地方王国は東西交渉史上重要な役割を果たしてきた。アショーカ王碑文にあるチェーラ朝は前数世紀から東西両世界と交易していたし,当時の港市ムージリスMūzilisの名は古代ギリシア・ローマにも知られていた。4世紀には早くもキリスト教が伝来したともいわれる。下っては13世紀にはマルコ・ポーロが,14世紀にはイブン・バットゥータが,15世紀には鄭和とバスコ・ダ・ガマが来航した。現在の州は1956年に,旧トラバンコール,コーチン両藩王国ほかのマラヤーラム語(州公用語)圏をもとに成立した。歴史を反映して,キリスト教徒とイスラム教徒がおのおの人口の約20%を占める。識字率も約60%とインド第1位であるが,貧しい。海岸の砂にはチタン鉄鉱,ジルコン,シリマナイトなどの希少鉱物資源を多く含むが未開発である。コーチンの造船業などを除けば,工業は伝統的な農村手工業,ココヤシロープ製造,カシューナッツ,コーヒー加工など農業関連工業がほとんどである。1957年の総選挙では非暴力的手段による世界最初の共産党州政府ができたが,2年間で交代した。
執筆者:応地 利明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報