日本大百科全書(ニッポニカ) 「ココヤシ」の意味・わかりやすい解説
ココヤシ
ここやし
coconut
coconut palm
[学] Cocos nucifera L.
ヤシ科(APG分類:ヤシ科)ココヤシ属、1属1種のヤシ。Cocoはポルトガル語でサルを意味し、種子の核に1個の珠孔と2個の珠孔痕(こん)があり、これがサルの口と目に似ることによる。幹は単幹で高さ20~30メートル、径30~70センチメートル、多少波状に伸び傾斜ないし直立する。葉は披針(ひしん)形で直伸し全裂羽状葉、長さ4~6メートルで光沢のある鮮緑色。小葉は長さ1~1.5メートルで中軸の両側に逆V字状に着生し、中軸、中脈とも明緑色。葉柄は自然に落下して幹肌に波状紋を残し、枯れ葉をみせない。熱帯のものは緑葉のままで斜め下方に垂れ、気温不足のときは枯れ葉が残るが水平以下には垂れない。雌雄同株で単性花をつける。花序は長さ1~1.5メートル、花は乳白色。雄花は小さく雌花は径10~30センチメートル。果実は3稜(りょう)がある楕円(だえん)形で横径10~30センチメートル。色は橙黄(とうこう)色(変種のキングココヤシking coconut, golden palm/var.aurea hort.)、赤褐色、白色、緑色の4色。外果皮は薄いが、中果皮は厚い繊維質、内果皮(核)は黒褐色の角質で硬く、珠孔内に胚(はい)があり、まれに2、3個の胚をもつものもある。胚乳(仁)は、未熟果では水液が充満し(ココナッツミルク)、成熟果では白い果肉となる。
30種以上の変種があり、アジア、アフリカ、ヨーロッパの熱帯の海岸に果実が漂着して広い範囲に生育する。熱帯を象徴する代表的なヤシで、観賞用のヤシ林とするほか鉢植えにもする。繁殖は実生(みしょう)により、30℃で30日くらいで発芽する。
[佐竹利彦 2019年4月16日]
利用
熟した果実の胚乳を取り出し、天然または人工乾燥したものがコプラである。コプラからやし油(ゆ)をとり、そのかすは肥料や家畜の飼料とする。やし油は料理に用い、マーガリン、せっけん、ろうそく、金属熱処理用などの原料とする。果肉を細く紐(ひも)状にして乾かしたものがココナッツ(干しやし)で、カレー料理の付け合わせや、酒のつまみ、菓子材料に使われる。若い果実の中にあるココナッツミルクは、わずかに酸味があって甘く、乾燥地では重要な清涼飲料となる。また、栄養分に富み植物培養の培地に添加される。花序を切除し、その切り口からあふれ出る液をトディtoddyとよび、それを発酵させてやし酒アラックarrackをつくり、また酢もつくる。中果皮の太い繊維(コイアcoir)は刷毛(はけ)、敷物、縄などに用いる。種子は堅くて工芸材料にもなり、また焼くと良質の木炭になり、ガス色素などの濾過(ろか)吸収炭として高く評価される。
[飯塚宗夫 2019年4月16日]