本来は,形成時期とは関係なく,河川の堆積作用によって形成された平野をさすが,日本では,最も新しい地質時代である沖積世(完新世)に形成された平野を総称して沖積平野とよぶことが多い。これは,〈沖積〉という語が本来の〈河川の堆積による〉という意味のほかに,〈新生代第四紀沖積世(完新世)の〉という意味を持つためで,このような混乱を防ぐため,最近では,河川の作用によって形成された平野を河成平野,そのうち低地の部分を河成低地,最終氷期の最大海面低下期(およそ2万年前)以後に堆積した沖積層から成り,現在の海面や河床からの高さがあまり高くない土地を沖積低地とよんで区別することがある。
沖積平野が形成されるには,平野を流れる河川の上・中流域における地形・地質・植生など砂礫の生産に関する条件,河川や海の営力など砂礫の運搬に関する条件,さらに砂礫が堆積する場所の条件が重要な意味を持ち,これらの条件の違いによって平野の地形に違いが現れる。利根川(中川)や木曾川,岩木川などの下流に発達する沖積平野では,上流側から扇状地,自然堤防帯,三角州が順に配列するが,天竜川や相模川下流の沖積平野では三角州を欠き,富士川,大井川,黒部川下流の沖積平野などでは扇状地が直接海に面して発達している。一般に,険しい山地が海岸近くまでせまり,平野が深海に面して発達するような地域では扇状地を主体とする沖積平野が形成され,比較的大きな河川が内湾や湖に注ぐような地域では,三角州が良好に発達する。
日本の主要な平野のように臨海部に発達する沖積平野では,その形成に際して最終氷期以後における海面変化の影響を強く受けている。沖積平野の地下には,海面が低下した時期に形成された河谷や河岸段丘がその後の海面上昇に伴う沖積層の堆積によって埋積され,埋没谷や埋没段丘として存在している。また,約6000年前の縄文時代前期ころには,急激な海面の上昇に伴って平野の内陸部にまで海が侵入し,入江が形成されていたことが知られており,平野の地下に発達する沖積層には厚い海成粘土や,当時の入江に生息していた貝の化石などが認められる。なお,海が最も拡大した時の汀線は,東京湾北岸の低地において埼玉県栗橋付近まで,濃尾平野では大垣市の南部まで,大阪平野では門真市および東大阪市の東部にまで達していたとされている。
日本をはじめとするアジアの国々などでは,沖積平野において多くの人々が居住し,古くから水稲栽培がおこなわれてきた。これに対して,水稲栽培をおこなわない地域では,若干の例外を除いて沖積平野の多くが荒地として放置されたり,牧草地として利用されているにすぎない。特に寒冷な地域では沖積平野の表面に厚い泥炭層が発達しており,開発の障害となっている。
執筆者:海津 正倫
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…洪積台地は地下水位が低く水を得にくいので,畑作地や平地林が目だつ。なお,国際的に用いられている〈沖積平野〉は時代区分的術語ではなく河成堆積平野という成因的意味をもつ。【式 正英】。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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