日本大百科全書(ニッポニカ) 「コバンヒイラギ」の意味・わかりやすい解説
コバンヒイラギ
こばんひいらぎ / 小判柊
toothpony
[学] Gazza minuta
硬骨魚綱スズキ目ヒイラギ科に属する海水魚。日本では沖縄本島でとれているが、台湾南部、中国の浙江(せっこう)省や広東(カントン)省、海南島、トンキン湾など西太平洋、インド洋の熱帯海域に分布する。体は卵円形。体高は体長の37~53%で、側扁(そくへん)する。背腹の外郭はおよそ等しく湾曲する。頭部背縁は目の上方ですこしくぼむ。口は前方に向かって突出させることができる。主上顎骨(しゅじょうがくこつ)の後端は瞳孔(どうこう)の前縁下に達する。上下両顎に明瞭(めいりょう)な犬歯がある。鰓耙(さいは)は鰓葉とほとんど同長で、上枝と下枝をあわせて17~20本。頭部および胸びれ基底と臀(しり)びれ起部を結ぶ線より前方の胸部に鱗(うろこ)がない。側線有孔鱗(ゆうこうりん)数は54~64枚。体は全体に銀色系。背側面は灰色で、側線の下方へ伸びる不規則形の暗黄色の斑紋(はんもん)がある。背びれの棘(きょく)部の鰭膜(きまく)の縁辺は黒い。臀びれの前部は黄色で、尾びれは黄色みを帯びる。胸びれの内側に黒点がある。水深約55メートル以浅の沿岸や内湾の砂泥底に群れですみ、汽水域にも侵入する。おもに小魚、エビ類、多毛類、甲殻類の幼生などを食べる。稚魚は10メートル以浅のマングローブ帯や河口域にすみ、プランクトンや昆虫などを食べる。最大全長は14センチメートルになるが、普通は10センチメートルほど。日本では多くとれないので食用にはされない。東南アジアでは大きいものは食用に、小さいものはアヒル類の餌(えさ)にされる。
本種は上下両顎に大きい犬歯をもつことでオオメコバンヒイラギG. achlamysやヒシコバンヒイラギG. rhombeaに似るが、オオメコバンヒイラギは背びれ起部前方の体の背側面に鱗がないことで本種と異なる。一方、ヒシコバンヒイラギは頭部側線系の上側頭部にある側線分枝に体側の有隣域が到達しないことなどで本種と区別できる。
[尼岡邦夫 2024年7月18日]