最新 心理学事典 「コホート研究」の解説
コホートけんきゅう
コホート研究
cohort study
【パネル調査研究の利点と欠点】 特定の時点でデータを収集し,調査対象間の違いを調べる研究を横断研究cross-sectional studyとよぶ。一方,縦断研究longitudinal studyとは複数時点でデータを収集する研究である。パネル調査は縦断研究の代表的な例である。パネル調査を用いる利点は,個人差や個体差を除去することで,発達や老化など関心のある要因単独の効果をより正確に推定できること,または特定のタイプの個人や個体の発達や老化の軌跡がほかとどのように異なるかを調べることができることにある。たとえば2012年4月時点での共通テストの学年別平均で学力発達を調べる場合は横断研究であるが,適用されている学習指導要領が学年間で異なることの影響など(コホート効果)を排除できない点で問題となる。2007年4月入学の小学1年生に対して,2012年まで毎年4月に共通テストを別の学校に実施して比較する場合には調査対象が異なる縦断研究になり,時点ごとに調査対象が異なる場合には平均値など集計値を利用して時点間の比較を行なうことになるが,個体の発達や老化ではなく,学校や地域など集団の違いが見かけの差を生む,いわゆる集計バイアスaggregation biasが生じる可能性がある。一方,同一生徒に対して6年間共通テストを実施する場合にはパネル調査となり,学校や地域差の影響を除去した個人内の発達軌跡を知ることができる。また,複数の学校で同一生徒を6年間追跡すれば,学校間での教育方法の違いによる発達軌跡の違いを知ることもできる。たとえば老化の影響を調べる場合に横断調査を行なうと,年齢が上がるにつれて調査に協力するのは健康な対象者のみになる傾向によって,大きなバイアスを生じる可能性がある。これに対し,パネル調査において調査開始時点で母集団から代表性のある標本抽出を行なっている場合には,学校からの退学や高齢者での死亡などを考慮した解析が可能である。
パネル調査の欠点は,同一対象を繰り返し追跡調査するため多大なコストがかかること,一般に途中から対象の一部が脱落dropoutするパネルの損耗panel attritionが発生すること,対象が複数回調査を受けることで,調査に対する慣れなどが生じて回答や反応にバイアスが生じることである。
【パネル調査データの解析方法】 パネル調査から得られたデータを解析する方法は,基本的には個人や個体の番号を固定効果や変量効果とする分散分析モデルと考えることができる。ほかにも発達や老化の軌跡を解析する方法として,「従属変数を時間の一次項や二次項で説明する」,「これらの項の偏回帰係数が個人によって異なる」「偏回帰係数が個人差を表わす変数によって説明される」という潜在発達曲線モデルが利用されることが多い。また,時系列データは一つの測定値が複数時点で得られるデータで,時点数が通常50程度以上であることが時系列解析の前提条件となるが,パネル調査ではサンプルサイズが多ければ少数時点で解析を行なうことができるという違いがある。
【コホート効果の分離】 パネル調査であれば,コホート効果は個体の固定効果の一種として推定することができる。一方,つねに調査年=年齢+生年という関係が成立するため,横断調査の場合には年齢の効果かコホート効果のどちらか,パネルではない縦断調査の場合には時点の効果と「年齢の効果,コホート効果のどちらか」しか推定できない。ただし,たとえば年齢とコホートについては1年単位ではなく複数年にする(1~4歳,1999~2001年生まれ,など),年齢効果やコホート効果に線形や二次など関数形を仮定する,などの工夫を行なうことで,三つの効果を別々に推定することができる場合がある。 →実験計画法
〔星野 崇宏〕
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