日本大百科全書(ニッポニカ) 「サカサナマズ」の意味・わかりやすい解説
サカサナマズ
さかさなまず / 逆鯰
squeaker
upside-down catfish
硬骨魚綱ナマズ目サカサナマズ科の淡水魚の総称。腹を上に向け、さかさまになって泳ぐので、この名がある。サハラ砂漠以南のアフリカに広く分布し、種類数は10種余りある。口は小さく、その周りに3対の糸状のひげがある。体はわずかに側扁(そくへん)するが、頭部は縦扁する。鱗(うろこ)はない。背びれに短くて鋭い1棘(きょく)、胸びれにも1棘があり、それらが倒れないよう固定するしくみ(ロック装置)をもつ。棘(とげ)の振動によって音を出す。背びれと尾びれとの間に、よく発達した大きな脂(あぶら)びれがあり、これに骨質の条(すじ)がある。
川または沼沢などに生息する。夜明けと夕暮れに活動し、ときに大きな群れをつくる。雑食性で水藻や水中の昆虫などを食べる。あまり食用にはしないが、ヨーロッパ、アメリカなどでは観賞魚としてとくに人気がある。
代表的な種は、アップサイドダウン・キャットフィッシュとよばれるコンゴ中部に生息するシノドンチス・ニグリベンテリスSynodontis nigriventrisである。全長10センチメートルに満たない小型種で、体色は一般的な魚とは逆に腹面が背面よりも黒ずみ、背面を水底に、腹面を水面に向けて泳ぐのに適応している。水生植物に付着する藻や小動物を食べる。体の背・腹が逆位になると、口が水面すれすれに位置するため餌(えさ)が食べやすい。しかし、底の餌を食べる時や、外敵などから逃げる場合には正位の状態で泳ぐこともある。昼間は石、流木、水草の下などに腹を上にして隠れているが、夜間には活発に活動して餌をとる。雌は雄よりも動作が活発である。産み出した卵は、外敵に発見されにくい場所に隠す習性があるので、飼育するときは小形の植木鉢を水槽内に入れてやるとよい。本種のほかに、ザンベジ川やタンガニーカ湖には30センチメートルを超えるシノドンチス・メラノスチクタスSynodontis melanostictus、ナイル川には17センチメートルになるシノドンチス・ニグリタSynodontis nigrita、ナイル川やチャド川には40センチメートルを超えるシノドンチス・スチャールSynodontis schallなどが生息している。
[落合 明・尼岡邦夫]