翻訳|Santa Claus
キリスト教の聖人ニコラスの異称。英語表記の正しい発音はサンタクローズ。4世紀初め、小アジア(トルコ)のリュキアの首都ミュラの司教であった聖ニコラスSaint Nicholasは、他の伝承を吸収しながら、ギリシア正教会の世界でもっとも有名な聖人になった。1087年、聖遺物が南イタリアのバリに伝えられ、その崇拝がヨーロッパにも広まった。中世にはすでに2000のニコラス教会があり、至る所の広場、橋、道端に立像がみられた。聖ニコラスは船乗り、パン屋、薬局、商人、法律家、子供、学生、不当に捕らえられた者、旅行者、あるいは水など、多方面の守護聖人になり、崇拝の大衆性をうかがわせる。祭日は12月6日。オーストリアではいまでもこの前夜に、司教に扮(ふん)した者が仮面や藁(わら)、毛皮で仮装した者たちと行列を組んで村を練り歩き、子供たちに説教し、あとで菓子やミカンなどをくれる。行列には新年の豊饒(ほうじょう)を願う機能もある。しかしこうしたカトリック地域の行事は、北ドイツのようなプロテスタントの地域では廃止されるか、クリスマスに移された。これによって、聖ニコラスとクリスマスが切り離せない関係になった。
もともと聖ニコラスの日は、中世の修道院付属学校の少年司祭の行事と結び付いて、子供の祭日という性格を強めていたが、19世紀の初めには、子供に贈り物をする聖ニコラスのイメージが定着した。ヨーロッパには、ひげの老人が白馬、ロバ、鹿(しか)に乗ってくるという土地もある。
[飯豊道男 2018年2月16日]
『W・ディーナー著、川端豊彦訳『ドイツ民俗学入門』第2版(1969・弘文堂)』▽『谷口幸男、遠藤紀勝著『仮面と祝祭』(1982・三省堂)』▽『国際機関日本サンタピア委員会監修『クリスマス事典』(2001・あすなろ書房)』▽『稲垣美晴著『サンタクロースの秘密』(講談社文庫)』▽『賀来周一著『サンタクロースの謎』(講談社プラスアルファ新書)』▽『J・G・フレーザー著、永橋卓介訳『金枝篇3』改版(岩波文庫)』
Santa Klausとも書く。4世紀に小アジアのミュラの司教であったニコラウスに由来し,聖ニコラウスを意味するオランダ語のSint KlaesまたはSinterklaasが英語でなまってサンタ・クロース(正しくはサンタ・クローズ)となった。ニコラウスの祝日(聖ニコラウスの日)は12月6日で,ヨーロッパ,とくにドイツ,スイス,オランダではその前夜は子どもが楽しみにする贈物の日である。日が暮れると,子どもを中心に家族一同が待つところへ,司教ニコラウスに扮した者が下僕ルプレヒトKnecht Ruprechtを従えて現れる。良い子には背負った袋からほうびのプレゼント,悪い子は訓戒のあと,改心の実ありと認められて,やはりなにかもらえる。伝説によると,ニコラウスは子ども好きで慈悲深く,あるとき貧しい3人の娘に,嫁入時の持参金としてそれぞれに金貨入りの財布を夜中に部屋に投げ入れてやったという。アメリカへはニューアムステルダム(現在のニューヨーク)に移住したオランダ系プロテスタントが伝え,クリスマス・プレゼントをする既存の習慣と習合した。現在ではたぶんに俗化され,トナカイの引くそりに乗り,クリスマス・イブに煙突から家に入り,子どものつるした靴下に贈物を入れてやる,白ひげ,赤服,赤ずきん,長靴ばきの好々爺とされる。
サンタ・クロースはイギリスではファーザー・クリスマスFather Christmasと呼ばれ,ドイツ語のWeihnachtsmann,フランス語のPère Noël,Bonhomme Noëlがこれに当たる。
→クリスマス
執筆者:戸川 敬一
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…ゼウスはクレタ島イデ山の雌ヤギあるいはニンフのアマルテイアの乳で養われた。サンタ・クロースとして広く親しまれる聖ニコラウスは,乳児のころ,キリストがユダに裏切られた水曜日と十字架にかけられた金曜日には,母の乳房を1度しか吸わなかったと,《黄金伝説》には説かれている。粘土からつくられたエンキドゥは野獣の乳で育ち勇猛だった(《ギルガメシュ叙事詩》)。…
…祝日は12月6日で,古くは,その前夜に子どもたちに贈物を届けるとされていた。これがオランダを介してアメリカに伝わり,サンタ・クロースの伝説となった。船乗り,婦人,子ども,ロシアなどの守護聖人。…
※「サンタクロース」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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