日本大百科全書(ニッポニカ) 「シフゾウ」の意味・わかりやすい解説
シフゾウ
しふぞう / 四不像
Père David's deer
[学] Elaphurus davidianus
哺乳(ほにゅう)綱偶蹄(ぐうてい)目シカ科の動物。中国原産の大形ジカの1種で、体長1.5メートル、体高1.15メートル、体重150~200キログラムに達する。体のわりに長大な頭部、たくましい頸(くび)をしたシカで、短い尾しかないシカ類のなかでは、先端に長毛を生やした飛節(後肢の膝(ひざ)に相当する部位)に達する長い尾をもつことも変わっている。ひづめはトナカイのように大きくて広く開き、側蹄も長い。よく発達した眼下腺(がんかせん)をもち、3枝の長大な角(つの)を生ずる。大きなひづめはウシに、頭はウマに、角はシカに、体はロバに似ているが、そのどれでもない、というのが「四不像」の名の由来である。毛色は、夏毛は黄褐色で、冬毛は灰褐色。成体に白斑(はくはん)はないが、子にはかすかにみられる。中国の北部や中央部の沼沢地に生息したとみられるが、1865年にフランスの宣教師A・ダビッドArmand David(1826―1900)が、北京(ペキン)の南苑(なんえん)に飼育中のものを発見したころは、野生種は絶滅したとみられていた。しかし、19世紀末ごろまでは生存したとの意見もある。南苑の群れはその後の洪水や義和団事件のため全滅したが、それ以前にイギリスのベッドフォード公爵家の庭園に搬出された個体群により繁殖が続けられ、1980年代初めには世界中の動物園で1000頭以上が飼育されるまでになった。1985年から飼育下のシフゾウの一部を中国の野生地に戻そうという運動が行われ、2006年時点で約950頭まで回復した。妊娠期間250日、1産1子、寿命約20年である。
[増井光子]