シャンバラ伝説(読み)シャンバラでんせつ

改訂新版 世界大百科事典 「シャンバラ伝説」の意味・わかりやすい解説

シャンバラ伝説 (シャンバラでんせつ)

チベット奥地に存在するといわれる仏教徒のユートピアシャンバラShambhala(Shambala)をめぐる伝説。後7世紀ころからチベットの仏教文献にその名が現れるようになり,シャンバラを聖なる蓮に見立てた曼荼羅も制作されている。チベット仏教のもっとも高遠な教えといわれる〈カーラチャクラ・タントラ〉(〈時の輪の教義〉の意)を信仰するこの聖都には,精霊の軍団を率いる帝王がいて,やがて起こる最終戦争に勝利して世界に永遠の黄金時代を招来するという。この楽園伝承の形成にはネストリウス派キリスト教やイスラム教の影響も認められるといわれる。チベットではこの聖都が北方にあるとの信仰があり,20世紀初頭にロシアは自国が同じ北方に位置することを利用して13世ダライ・ラマに接近をこころみるという事件も起きた。一方,《西蔵大蔵経》中に,入滅直前の釈迦がシャンバラの帝王シューチャンドラにカーラチャクラを伝授した経緯など詳細な来歴を記した経典も存在することから,この聖都を実際に発掘する試みもなされている。

 この伝説は17世紀にF.カブラルらイエズス会の東洋布教報告を通じてヨーロッパに伝えられ,チベットに対する秘教的な聖地崇拝観がかたちづくられた。19世紀にはブラバツキーが出,シャンバラの賢者マハトマからの使命と称して神智学運動を開始し,またシャンバラ伝説をさらに神秘化させたと思われるスリランカの地下聖都アガルタAgharta伝説が,東洋通のフランス人神秘家ダルベードルSaint-Yves d'Alveydreによって喧伝された。20世紀に入ってからは,ロシアの神秘思想家レーリヒが本格的にシャンバラ思想を展開し,ソ連とアメリカの和解と心霊的な世界連邦樹立を目指して活動した。そのため,アメリカではこの名がユートピアの同義語となり,J.ヒルトンの小説《失われた地平線》(1933)に描かれたチベット山中の理想郷シャングリラShangri-Laのモデルともなった。のちF.D.ローズベルトはメリーランドの大統領別邸(現在のキャンプ・デービッド)を,平和への希求を込めてシャングリラと名づけた。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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