日本大百科全書(ニッポニカ) 「しょうこう熱」の意味・わかりやすい解説
しょうこう熱
しょうこうねつ / 猩紅熱
scarlet fever
のどの痛みとともに高熱を発し、全身に赤い発疹(ほっしん)ができる急性伝染病で、病名は、発疹の現れた皮膚の赤さが中国の想像上の動物、猩々(しょうじょう)の顔の色に似ているところから名づけられたもの。感染症予防・医療法(感染症法)でA群溶血性連鎖球菌咽頭(いんとう)炎として5類感染症に分類されている。
病原は溶血性連鎖球菌(溶連菌)で、患者または保菌者から飛沫(ひまつ)感染し、大部分は咽頭(いんとう)(とくに口蓋扁桃(こうがいへんとう))に病巣をつくるアンギナしょうこう熱であるが、まれには皮膚の傷にこの菌がついて病気をおこすこともある。この場合は創傷しょうこう熱とよばれ、のどは痛まない。
晩秋から春にかけて流行し、かかりやすいのは3~12歳の子供で、幼稚園や小学校で集団発生することがあり、大人もかかることがある。
[柳下徳雄]
症状
2~5日の潜伏期ののち、のどが赤く腫(は)れて痛み、寒気(さむけ)とともに39℃前後に発熱し、食欲不振、あるいは数回嘔吐(おうと)したりする。発熱して1~2日たつと、細かくて赤い発疹が首や胸から始まり全身に現れ、かゆい。発疹から1~2日遅れて舌の白い苔(こけ)がはがれると、真っ赤でつぶつぶのある舌の表面が現れる。これは西洋イチゴに似ているので、いちご舌といわれ、この病気に特有である。
発疹は3~4日すると赤みがさめ、やがて皮がむけるが、発疹が顕著でなかったときは、躯幹(くかん)では糠(ぬか)のように細かくむけるので目だたず、手指の末端だけむけるのがわかる。
[柳下徳雄]
治療
ペニシリン系の抗生物質がよく効き、症状は2~3日で消え、見かけだけは治ったようになる。しかし、十分な期間服薬を続けないと、保菌者となって他の子供へ感染させたり、本人に急性腎(じん)炎やリウマチ熱などの合併症をおこす危険もあるので、注意する必要がある。
ペニシリンで治療すれば軽症で治ることが多いので、1980年ごろから、しょうこう熱としてではなく、溶連菌感染症という病名で在宅治療を行うのが普通となった。この病名では法的な規制は受けない。したがって統計上しょうこう熱患者数は非常に減少しているが、実数は相変わらず多く、小児の伝染病として重要である。
[柳下徳雄]