ペニシリン(読み)ぺにしりん(英語表記)penicillin

翻訳|penicillin

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ペニシリン」の意味・わかりやすい解説

ペニシリン
ぺにしりん
penicillin

治療薬として最初に使われた抗生物質。1928年、イギリスの細菌学者フレミングが、ブドウ球菌の培養中に偶然アオカビ培地に混入してその周辺でブドウ球菌の溶菌現象がおこっているのを認め、このアオカビPenicillium notatumの培養液中に抗菌作用を示す物質のあることを発見、その物質をペニシリンと命名した。しかし、熟練した化学者の協力がなく、治療価値を調べられる程度まで濾液(ろえき)を精選濃縮することができないまま約10年間も放置されていた。かくして1940年に至り、イギリスの病理学者フローリーと生化学者チェインらによって初めて粉末状に分離され、化学的に安定な形で使われるようになり、ヒトグラム陽性菌感染症にすばらしい治療効果を示すことが実証され、抗生物質時代の幕開きとなった。これをペニシリンの再発見とよんでいる。

 ペニシリンは当初単一物質と考えられていたが、F、G、X、Kの4種が混在していることがわかり、そのうちG(ベンジルペニシリン)が生物学的活性および安定性において優れていることが明らかとなった。現在、ペニシリンには天然(生合成)ペニシリンと合成ペニシリンとがあり、それぞれ経口用と注射用に分けられている。

 天然ペニシリンには、主として注射用に使われるベンジルペニシリンカリウムやベンジルペニシリンプロカイン、経口用のベンジルペニシリンベンザチンやフェノキシメチルペニシリンカリウムがある。

 一方、ペニシリンの母核である6-アミノペニシラン酸の合成に成功(1957)し、現在のペニシリン製剤の大部分は合成ペニシリンになった。初めはペニシリンの欠点である耐性菌やアレルギーの発生の少ないものとして、クロキサシリン、ジクロキサシリンメチシリンなどが開発されたが、現在ではグラム陽性菌ばかりでなく、グラム陰性菌にも有効なアンピシリンより始まる合成ペニシリンが主流を占め、アモキシシリン、タランピシリン、バカンピシリン、カルフェシリン、カリンダシリン、ヘタシリン、シクラシリン、カルベニシリン、スルベニシリン、チカルシリン、ピペラシリン、メズロシリンがあり、緑膿(りょくのう)菌にも有効なものが開発された。

 なお、ペニシリンは化学構造上、基本骨格にβ-ラクタム環をもつところから、同じくβ-ラクタム環をもつセファロスポリン系抗生物質とともに、β-ラクタム系抗生物質とよばれている。

[幸保文治]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ペニシリン」の意味・わかりやすい解説

ペニシリン
penicillin

代表的な抗生物質。 1928年,イギリスの A.フレミングがアオカビから発見し,その後ペニシリンの単離抽出の技術が開発されて,抗生物質の急速な進歩のさきがけとなった。主としてグラム陽性菌,レンサ球菌,肺炎菌,淋菌髄膜炎菌などの感染症の治療に用いられる。副作用は軽度の発疹発熱など。注射中または注射後数分以内に頭痛発汗,胸内苦悶,血圧下降などの症状を呈することがある (ペニシリンショック) ので,過敏体質の患者には禁忌である。臨床に用いられているペニシリンの合成品は種々ある。

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