日本大百科全書(ニッポニカ) 「ショクヨウギク」の意味・わかりやすい解説
ショクヨウギク
しょくようぎく / 食用菊
キク科(APG分類:キク科)の多年草。植物分類上は、観賞用の大輪のキクと同じで、花弁を料理に用いるキクの品種群をいう。リョウリギク(料理菊)ともいい、とくに東北地方に多く栽培され、青森県三戸(さんのへ)郡、秋田県湯沢市、山形県山形市周辺などが産地である。キクの花を食用にすることは中国や日本で古くから行われており、観賞用の大輪の花も食べることができるが、品種によっては苦味が強く食用に適さない。苦味がなく、香りのよいものへと選抜されてできたのがショクヨウギクである。阿房宮(あぼうきゅう)という淡黄色八重咲きの品種や、山形など東北地方では「もってのほか」の名でよばれる延命楽(えんめいらく)という淡紅紫色の晩生(おくて)品種が優良のものとして知られている。
なまの花を摘み取ったものが店頭に出回るが、小さな花はそのまま、大輪のものは包(苞)(ほう)を取り除き花弁だけにして調理する。酢を少々垂らした湯で手早くゆで、水でさらして、水をきる。香りと特有の歯ざわりを楽しむものだからゆですぎないことが肝心である。これをひたし物、酢の物、和(あ)え物などにする。てんぷらには、なまの花を用い、また葉も利用される。漬物にもされ、山菜やキノコとしょうゆ漬けにしたものが土産(みやげ)品として販売されている。農家では花弁を塩漬けにしておき、冬季の祝いの席などに供する。花弁を蒸し、莚(むしろ)に広げて乾かして干しのりのようにした菊のりは、もどしてからひたし物、酢の物、和え物などにする。なまの花100グラム中には、ビタミンC21ミリグラム、カロチン90マイクログラムが含まれるが、栄養よりむしろ嗜好(しこう)食品である。また、キクの花に綿をかぶせ、それに宿った露を集めて飲むと長寿の効果があると考えられていたことが、平安期の文学作品にみられる。
[星川清親 2022年2月18日]