スキルス胃がん

六訂版 家庭医学大全科 「スキルス胃がん」の解説

スキルス胃がん
(食道・胃・腸の病気)

 胃がんは、病理学的には、大部分が腺管構造をとって胃の内壁に現れる分化型腺がんに分類されます。しかし、一部の胃がんは腺管構造を作らず、細胞がばらばらになって胃の粘膜の下に広がっていきます。これは細胞の種類としては病理学的に低分化腺(ていぶんかせん)がんや印環細胞(いんかんさいぼう)がんなどに分類されます。こういった進み方をするがんは、一般に強い線維化を伴って胃壁が硬くなり、胃の弾力性は失われます。このようなタイプのがんは“スキルス胃がん”と呼ばれ、胃がん全体の9%程度を占めます。

 スキルスとはギリシア語のskirrhos(硬いの意)に由来しますが、ボルマン4型胃がんとスキルス胃がんはほぼ同じ意味です。このがんの特徴としては女性に多い(男女比2対3)こと、発症年齢が低い(他の胃がんに比べて3~4歳若く、とくに女性にその傾向が強い)ことがあげられます。

診断・治療上の問題点

 進行したスキルス胃がんは、胃X線造影検査や内視鏡検査で診断は容易です。しかし比較的初期(胃の一部に病変が限られている)のスキルス胃がんは胃の粘膜面の変化が乏しく、内視鏡下の生検による診断が偽陰性(ぎいんせい)になる可能性があるため注意が必要です。若い女性で症状が続く場合は、繰り返し検査を受けることや、セカンドオピニオンを聞くことも重要です。

 臨床的な問題点としては、X線検査や内視鏡検査での早期診断が困難なこと、進行が早く高率に腹膜へ転移するため切除で治る可能性が低く、また有効な抗がん薬もないことがあげられます。70%の人ががん性腹膜炎(腹水貯留や腸管閉塞)が原因で亡くなります。切除できたとしても5年生存率は10%程度で、予後は不良です。

 分化型腺がんとは違い、腸上皮化生粘膜(ちょうじょうひかせいねんまく)ではなく胃の固有粘膜から発生することが知られており、エストロゲン関与や、このがんに特有な遺伝子変化も徐々に解明されてはいますが、詳しい発がんの過程はわかっていません。ヘリコバクター・ピロリの関与は、分化型腺がんよりは低いものの、関連はあると考えられています。

 早期発見が困難でもあり、手術だけで完全に切除できる可能性も低いことから、多くの集学的治療(いろいろな治療の組み合わせ)や実験的治療が試みられていますが、現在のところスキルス胃がんに対する有効な治療法はありません。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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