家庭医学館 「がん性腹膜炎」の解説
がんせいふくまくえん【がん性腹膜炎 Peritoneal Carcinomatosis】
腹腔(ふくくう)内の消化器がんや婦人科のがんが進行して末期になると、腫瘍(しゅよう)からがん細胞が脱落したり、転移したリンパ節が大きくなり、腹膜の全面にわたってがんの小さな結節(けっせつ)ができます。この状態が、がん性腹膜炎です。
[症状]
腹水(ふくすい)がたまり、悪心(おしん)、嘔吐(おうと)、発熱、呼吸困難などの症状がみられ、全身が衰弱して悪液質(あくえきしつ)(末期の衰弱状態)になってしまいます。また、がん細胞が腸管に腫瘤(しゅりゅう)をつくると腸閉塞(ちょうへいそく)になり、腹痛や鼓腸(こちょう)(腸が鳴ること)などがみられます。
予後はとても悪いのですが、腹水を減少させ、高カロリー輸液で栄養管理するなどして、患者さんの苦しみを減らし、ある程度の延命は可能です。
[原因]
がん細胞が腹腔内に播種(はしゅ)(種をまくように散らばって転移すること)されておこるため、最初の手術のときに腫瘍をつき破らないようにするのが重要です。
しかし、リンパ管を通って腹膜にがん細胞の結節ができることもあります。その原因はよくわかっていません。
[検査と診断]
超音波検査やCT検査で腹水の有無を確認し、腹水がある場合は穿刺(せんし)(長い針を体内に刺し入れて体液を吸引する方法)を行ない、がん細胞を証明します。ただし、腹水が少ないと証明しにくく、診断のためには1ℓ以上の腹水の量が必要です。
なお、栄養状態の悪い人、腎機能障害のある人、肝硬変(かんこうへん)のある人も腹水になることがあります。したがって、腹水があるからといって、必ずしもすべてががんとはかぎりません。
腹水穿刺(ふくすいせんし)を行なうと、体液のバランスが崩れるため、頭痛、めまい、血圧低下、ショックなどをおこすことがあります。しかし、がんの原発巣(げんぱつそう)をつきとめ、その程度を診断することは、治療の方針を立てるうえで不可欠です。
腹水穿刺のほか、レントゲン検査、腫瘍マーカーの検査などを受ける必要もあります。
[治療]
がん性腹膜炎の治療はむずかしく、多くは期待できません。しかし、残された短い期間をできるだけ苦しむことなく過ごすことができるよう、いろいろな方法がとられます。
まず、利尿薬(りにょうやく)と腹水穿刺、排液で腹水を軽減させます。抗がん剤はあまり期待できませんが、マイトマイシンCやシスプラチンなどを腹腔内に注入したり、免疫療法剤(めんえきりょうほうざい)、サイトカインなどを使用したりします。なお、治療効果をあげるための温熱療法もありますが、あまり期待できません。
がん性腹膜炎になると、脱水、低(てい)たんぱく血症(けっしょう)、腸閉塞などをおこすため、それらへの対策も必要になります。摂食できないときは高カロリー輸液、排便できないときはイレウス管の挿入や人工肛門(じんこうこうもん)の設置などが考えられますが、それらはあくまで患者さんの苦痛軽減を目指して行なわれるべきものです。
がん性腹膜炎は現在の医学ではまだ防止しきれないため、最初の手術をきちんと成功させることが肝要です。