翻訳|sports car
外見がスポーティーで性能が優れ、操縦を楽しめるよう性格づけられた乗用自動車の一種。スポーツカーは「レーシングカーの終わるところから始まり、ファミリーカーの始まるところで終わる」といわれる。すなわち、レーシングカーと実用車の中間で、その双方とある程度重なり合っている。基本的には実用車として一般の公道で日常に使える性能がありながら、そのままサーキットに乗り入れたり、ラリーに参加もできる能力ももつ二重性格車である。レース、ラリー用車が高度に専門化した今日では事実上は不可能となったが、イメージとしては変わっていない。
1960年代中ごろまで、ヨーロッパ製のオープン2(ツー)シーター(2座席車)はすなわちスポーツカーといってよかった。しかし、その後、スポーツカーにもよりよい居住性と安全性が要求された結果、クーペの形態をとるものが多くなり、長距離旅行車を意味するグラン・ツリスモgran turismo(イタリア語)またはその頭文字のGTでよばれるものがスポーツカーの主流を占めるようになった。一方、4人以上乗れる実用的なセダンのなかにも、高性能なスポーツセダンsports sedan(アメリカ英語。英語ではスポーツサルーンsports saloon)が生まれ、グラン・ツリスモとの区分はほとんどなくなっている。
スポーツカーは、レースもできる高性能を備え、操縦する際に機械を駆使する快感を味わえなければならない。そのためには、同クラスの純実用車よりも強力なエンジンと、軽く、低く、空気抵抗の少ないボディーが必要である。またステアリングは鋭敏で、操縦性、ロードホールディング(接地性。車輪がつねに路面の凹凸に追従する性質)に優れ、ブレーキも強力でなければならない。コーナーでも乗員が遠心力で振り回されないようしっかりとホールドするシートが必要で、操縦席のデザインも高級な機械の質感と、人と車との一体感を与えることが望ましい。むだのない精悍(せいかん)なスタイリングもスポーツカーの魅力である。
スポーツカーの本場はヨーロッパで、実用面で自動車が早くから著しく普及したアメリカでは趣味的な要素が入り込む余地がなく、長くスポーツカーは不毛であった。ヨーロッパでは各国に優れたスポーツカーがあり、なかでもイギリスとイタリアは種類も生産量も多かった。とくにイギリスはアルビス、アストン・マーチン、ベントレー、フレーザー・ナッシュ、ジャガー、MG、サンビーム、ライレー、タルボット、トライアンフなど、大小さまざまなスポーツカーの王国であった。
しかし1970年代にアメリカで高まった自動車の安全性要求の結果、安全基準や排気ガス規制が強化された。オープンカーに対する具体的な禁止条例や制限はなかったものの、オープン2シーターはまるで葬り去られたかのように市場から姿を消した。その後は、イギリスのアストン・マーチンやジャガー、イタリアのフェラーリやマセラーティ、ドイツのポルシェ、アメリカのシボレー・コルベット、日本のフェアレディZなどのGTがスポーツカーの主流を形成するようになった。だが、居住性よりも、スパルタンな心情的スポーツカー(快適な居住性よりもスポーツ色を重視、適度な緊張感をもつ純度の高い走行性を追求したタイプの乗用車)の再現を望む声は強く、これに答えたのが1989年(平成1)に誕生したマツダのオープン2シーター・スポーツカー、ユーノス・ロードスター(輸出名ミアータ)であった。同車が大成功を収めた結果、ポルシェ・ボクスター、メルセデス・ベンツSLK、BMW‐Z3やZ8、アルファ・ロメオ・スパイダー、フィアット・バルケッタなど、オープン2シーターのスポーツカーが次々と復活、進化している。
今日では、ひとくちに乗用車といっても、その性格はきわめて多様化している。たとえば1(ワン)ボックスカーやオフロード・タイプのいわゆるSUV(Sport Utility Vehicle)もスポーツカーの一種と考えることができる。アメリカではSUVは小型トラックに分類されるが、2001年には初めて小型トラックの販売売上げが乗用車を上回っており、このことは注目される。
[高島鎮雄]
『高島鎮雄監修『あたらしい自動車ずかん』(1999・成美堂出版)』▽『平山暉彦著『栄光に彩られたスポーツカーたち』(2000・三樹書房)』
明確な定義があるわけではないが,一般に,単なる輸送機械としてだけでなく,走らせること,すなわち操縦することにスポーツ性や楽しみの要素をもたせた自動車をスポーツカーと呼んでいる。一般的な特徴としては,車両重量に比較して強力なエンジンを搭載して優れた動力性能をもち,それに見合った強力なブレーキ性能,卓越した操縦性,安定性を有すること,また多くは2人乗り(前席を優先させた4人乗りもある)で,形態上はオープンボディやクーペボディをもつことなどがあげられる。1960年代までのスポーツカーは走る機能が最優先され,耐候性,居住性や運転のしやすさなどはややもすると二の次にされていた。すなわち,乗りごこちを犠牲にしてもタイヤの接地性を高めるために硬いサスペンションが採用され,ハンドリングに対する応答性を高める手段としてステアリングギヤ比は小さく選ばれるために操舵力は重く,また強力なエンジンのトルクを断続するためにクラッチペダルを踏むにも大きな力を要し,さらに踏力に比例した効きあじを得るためにブレーキペダルもかなりの踏力を必要とした。そのようなスポーツカーを運転して楽しむためには,相当の運転技術を前提とし,同時に体力も要求された。この時代,イギリスでは郊外などで操縦すること自体を楽しむ小型スポーツカーが発達,一方,ヨーロッパ大陸,とくにドイツやイタリアでは,長距離の高速ツーリングを可能とする大きな荷物スペースをもち,居住性も考慮されたスポーツカーが発達し,これらはグランツーリスモgran turismo(GTと略称され,英語ではグランドツーリングgrand touringという。日本でいうGTカーのこと)と呼ばれる。アメリカでは,大排気量,大馬力の量産エンジンを流用したスポーツカーに特徴がある。
スポーツカーに要求される性能は,時代の移り変りとともに変化しており,現代では,特殊な自動車ではなく,高度な運転技術をもたなくともだれにでも操縦することができ,さらに快適な居住空間をもつことも要求され,そのためパワーステアリング,パワーウィンドー,パワーアシストブレーキを備え,エアコンディショナー,自動変速機を装備した車種も登場している。この考え方からいえば,潜在能力やあらゆる限界能力が高く,セダンやクーペなど形態上の区別はとくになく,高度に空気力学的なボディ形状の追求がなされた,総合的に最高の機能を有する自動車が現代のスポーツカーの条件といえよう。
→レーシングカー
執筆者:中谷 弘能
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…通常は乗員10人以下。(2)スポーツカー スポーツとしての運転を楽しむことを目的とし,通常は乗員2人以下で最大でも4人まで。(3)貨客兼用車 小人数と少量の荷物の輸送を目的とするもので,欧米ではステーションワゴンといい,日本ではバンと通称されることが多い。…
※「スポーツカー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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