センザンコウ(読み)せんざんこう(その他表記)pangolin

翻訳|pangolin

日本大百科全書(ニッポニカ) 「センザンコウ」の意味・わかりやすい解説

センザンコウ
せんざんこう / 穿山甲
pangolin

哺乳(ほにゅう)綱有鱗(ゆうりん)目センザンコウ科に属する動物の総称。この科Manidaeには2属7種があり、サハラ砂漠以南のアフリカインドスリランカ、中国南部、台湾、海南島、マレー半島スマトラ島ジャワ島、バリ島、ボルネオ島、パラワン島など南アジアの地区に知られている。頭部、背、体側部、四肢の外側は松かさ状の堅い鱗(うろこ)で覆われ、頭部の下、体の上面、四肢の内側は厚い皮膚でまばらな毛が生える。頭胴長30~88センチメートル、尾長35~88センチメートル、体重4.5~27キログラム。前肢に比べて後肢が長く、四肢ともに5指を有し、前肢のつめは大きく、木に登ったり穴を掘るのに役だつ。アジア産のものには小さな外耳がみられるが、アフリカ産のものは外耳を欠く。舌は長く、30センチメートルも口から出す。筋肉質の胃は単一で、胸部に1対の乳頭があり、1産1子まれに2子がみられる。

 単独あるいはつがいで、森林、やぶ、開けたサバナに生活する。日中は樹洞や巣穴で過ごして夜間活動し、シロアリアリを長い舌でなめ取り餌(えさ)とするが、体の柔らかい昆虫や幼虫なども食べる。センザンコウは穴を掘ることが巧みであるばかりでなく、木にもよく登る。地下に掘った巣穴は3メートルにも及び、アフリカ産のオナガセンザンコウのようにおもに樹上で生活するものもある。敵に襲われたセンザンコウは、体を丸めてボールのようになり、堅い鱗で身を守る。

 センザンコウ属の3種、インドセンザンコウManis crassicaudata、マレーセンザンコウM. javanicaミミセンザンコウM. pentadactylaが南アジアに、アフリカセンザンコウ属の4種、オオセンザンコウPhataginus giganteaサバンナセンザンコウP. temmincki、オナガセンザンコウP. tetradactylaキノボリセンザンコウP. tricuspisがアフリカに分布している。

 なお、台湾に分布するミミセンザンコウの亜種M. p. pendactylaをセンザンコウとよぶ場合もある。

[齋藤 勝]

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改訂新版 世界大百科事典 「センザンコウ」の意味・わかりやすい解説

センザンコウ (穿山甲)
pangolin

体が角質のうろこでおおわれた有鱗目センザンコウ科Manidaeに属する哺乳類の総称。アリとシロアリを常食とする。ラーリ鯪鯉)ともいう。頭は小さく,吻(ふん)が長くとがり,四肢は短い。うろこで体がおおわれているため,一見爬虫類のように見えるが,腹部,四肢の内側などには毛が生えている。インド,ネパール,東南アジア,中国,台湾に3種,アフリカに4種が分布する。松ぼっくりの鱗片に似たうろこは,毛が変化したもので,黄褐色から暗褐色。ふつう白色から淡褐色の毛の生えた腹部,四肢の内側などを除く全身をおおう。体長30~88cm,尾長35~88cm,体重4.5~39kg。貧歯目のアルマジロと同様に,敵に襲われると体を丸めて柔らかな腹部を守るが,両者に類縁関係はなく,吻がとがるなどの類似は同じアリ食への特殊化の結果である。体を丸める際には,鋭い縁をもつうろこが立てられ武器とされる。前肢のつめはとくによく発達し,木登り,穴掘り,シロアリの塚を壊すなどの用途に使われる。細長い舌は,一部の種では長さ40cmに達し,アリやシロアリの巣内に差し込んで虫をなめるのに使われ,胃は2lのアリを収容できる。あごは細く,歯も退化,消失しているが,その代わり厚い筋肉の層をもつ胃がアリやシロアリの体をすりつぶす働きをする。

 森林から草原まで,さまざまな環境にすみ,大部分の種は夜行性。オオセンザンコウManis(=Phataginusgigantea,サバンナセンザンコウM.temmincki,ミミセンザンコウM.pentadactylaなどの地上生の種と,オナガセンザンコウM.longicaudata,キノボリセンザンコウM.tricuspisなどの樹上生の種があり,後者は尾を木の枝などに巻きつけて体を支えることができる。地上生の種は地下に掘った穴を,樹上生の種は木の洞を巣とする。地下の巣穴は,一部の種では長さ40mにも達することが知られている。ふつう単独,ときに雌雄のつがいで生活し,特定の繁殖期はなく,雌は1産1子,ときに2~3子を生む。子のうろこは誕生直後は柔らかく,生後2日目に入って堅くなる。移動時は,親の背あるいは尾に乗って運ばれる。寿命は最長のもので13年。肉は美味とされ,中国ではうろこが薬として売買されてきた。また,近年では,アメリカでうろこを取り去った後に残る三角模様付きの皮にカウボーイ・ブーツとしての人気が高まり,大量に捕獲,輸出され,絶滅の危険も出てきている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「センザンコウ」の意味・わかりやすい解説

センザンコウ
Pholidota; pangolin

哺乳綱有鱗目センザンコウ科に属する動物の総称。1科1属7種から成り,全長約 1m,うち尾長 40cm内外。体は鱗でおおわれ,爬虫類を思わせる。歯をもたず,長い舌を使ってアリ,シロアリをなめ取る。夜行性で,土中や岩の間の穴に巣をつくる。危険なめにあうと体を球状に丸める。アジアには3種が分布しており,そのうちの1種インドセンザンコウ Manis crassicaudataは全長 1m内外で,インド,スリランカにすむ。またアフリカには4種が生息しており,そのうちのオナガセンザンコウ M. longicaudataは,その名のとおり全長 75~95cmのうち約3分の2は尾で占められている。

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百科事典マイペディア 「センザンコウ」の意味・わかりやすい解説

センザンコウ

有鱗(ゆうりん)目センザンコウ科の哺乳(ほにゅう)類。インドセンザンコウ,ミミセンザンコウ,オオセンザンコウなど7種がしられ,アフリカと南アジアに分布し,森林から開けたサバンナにまですむ。ミミセンザンコウは体長40〜56cm,尾30〜35cm。体は暗褐色の鱗でおおわれ,前肢のつめは強大。ネパール〜ミャンマー,中国,台湾に分布。森林に穴を掘ってすみ,夜出てアリ,シロアリを食べる。敵にあうと球状になり,柔らかい腹部を隠して身を守る。1腹1子。

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世界大百科事典(旧版)内のセンザンコウの言及

【甲】より

…アルマジロの祖先にあたる第三紀のグリプトドン類は,カメの背甲と酷似した一体化した骨性の背甲のほか,頭頂部と尾の周囲にも堅固な骨性の甲を備えていた。センザンコウの体表のほとんどを覆う松笠状のうろこは毛の変形したもので融通性が高い。サイの胴を覆う強靱な外被は皮膚の厚くなったもので,甲とはいいがたい。…

※「センザンコウ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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