最新 心理学事典 「タイプA」の解説
タイプエー
タイプA
Type A
【タイプA研究と測定尺度】 1960年代から70年代にかけて,8年半にわたる前向き疫学調査prospective epidemiological study(健康な人を対象として,追跡調査によって病気になった人の要因を調査すること)であるアメリカの西部共同研究Western Collaborative Group Study(WCGS:1975年発表)をはじめとする多くの研究の結果,タイプA行動者はタイプB行動者の約2倍CHDを発症することが,さらに心筋梗塞の再発率は5倍であることが示された。そこでCHDの危険因子である高血圧,肥満,喫煙などと並ぶ独立した危険因子として,タイプAが注目されるようになった。
心理学においては,このような行動を生じさせる背景となる性格(タイプA性格)も研究された。グラスGlass,D.C.(1977)はタイプA行動の本質を,環境に対するコントロールの確立であると主張した。すなわち,タイプA行動は挑戦的と判断される環境ストレスが高まるほど,コントロール感に動機づけられて強くなる。とくに事態の対処不可能性という脅威に直面した場合,タイプAは最も先鋭化した形で発揮される。しかし,この対処不可能性が慢性化した場合,自己コントロール感は反対に無力感に転じ,しだいにうつ状態に陥る危険性があるという。
また,プライスPrice,V.A.(1982)は,タイプAは社会的に学習された以下の三つの認知的信念から成り立つと考えた。⑴自己の存在価値を証明し,自尊心を高揚する唯一の道は,世間や他者から高い評価と賞賛を受ける業績によってのみ可能となる。⑵現実の世界に普遍的な道徳原理は存在しない。⑶人生とは勝者になるか敗者になるかのゼロ・サムゲームである。したがってタイプA行動者の認知的信念として,人生をあくまでも競争とみなし,人より一歩でも先んじようとする強固な信念と,その底にある人間不信の態度が指摘されている(橋本宰・石原俊一,1993)。
タイプAの測定法として,欧米で開発されたものでは,WCGSで用いられた構造化面接structured interview(SI)や,質問紙法であるJenkins activity survey(JAS),子どもの行動観察法のMatthews youth test for health(MYTH)などが多く用いられている。日本で開発された測定法としては,A型傾向判別表や東海大式日常生活調査票,KG式日常生活質問紙などがある。
【タイプA研究の発展】 タイプAは,多様な心理行動傾向から構成された概念である。そのためグローバルなタイプAは,CHDの発症に関連がないとするハウスマンHausman,J.とワイズWise,D.(1985)の多危険因子介入試験multiple risk factor intervention trial(MRFIT)において,タイプAの評価が再検討された。そして,デンブロスキーDembroski,T.R.ら(1985)によって,CHDの危険因子としてとくに敵意や怒りが注目されるようになった。一方,日本においては,仕事中毒というような集団への過剰適応がCHDの危険因子として想定されているが,前向き疫学研究はなされていない。
さらに近年欧米では,タイプAや怒り・敵意に代わって,デノレットDenollet,J.ら(2008)によって提唱されたタイプD Type D(憂うつdepressionのD)がCHDの発症要因として注目されている(石原,2010)。ネガティブ感情(落ち込み・不安・抑うつ)を喚起することが多く,かつ社会的場面において感情表現を抑制する社会的抑制も高い。デノレットらがCHD患者を5~10年追跡調査した結果,タイプDが死亡率や心事故発生率に対して非常に高い予測要因であることが明らかにされた。日本においてはタイプDに関する研究はまだほとんどなされていないが,今後注目される要因であるといえよう。
なお,癌患者に多く見られる性格として,怒り・悲しみなどの感情を抑制したり,自分を抑えて他者を気づかうことなどが挙げられ,これをタイプC Type C(癌cancerのC)という(Temoshok,L.,1992)。
〔大木 桃代〕
出典 最新 心理学事典最新 心理学事典について 情報