知恵蔵 「タイ洪水」の解説
タイ洪水(2011)
熱帯モンスーン気候のタイでは、毎年6~10月頃の雨期に北部のチャオプラヤ川上流で降る雨が川の水位を上げ、10月頃に中部の平野部でしばしば洪水を起こしてきた。ダムや用水路で制御できずに川から溢れた水は、広大な水田地帯の中部では、天然の灌漑(かんがい)用水として水田に利用されてきた。しかし、今期は、50年ぶりとも言われる規模の大雨で、チャオプラヤ川に支流が合流する中部アユタヤ県で川が氾濫。洪水は徐々に南に広がりながら、首都バンコクの市街地にまで達した。
タイには、多くの日系企業が進出している。在留日本人は、約4万7000人。アユタヤなどにある洪水被害を受けた7工業団地では、約800社のうち5割以上が日系企業。特にバンコク周辺は、「アジアのデトロイト」と呼ばれるほど自動車産業が集積しており、日系メーカー8社が現地生産している。この洪水で、アユタヤのロジャナ工業団地の工場が冠水したホンダが生産を停止したのみならず、部品メーカーが被災して部品の供給網が途切れたことから、被災地域外やタイ国外の工場も操業停止や減産に追い込まれた。この影響で、一部の車種で発売が延期になった他、納車に遅れが出るなどの影響が出た。長引く被害に、在留日本人の中には、バンコクを脱出して一時帰国する人も続出。政府は、被災した日本企業のタイ人従業員に、日本国内での条件付き就労を認める措置を発表した。
(原田英美 ライター / 2012年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報