タコブネ (蛸舟)
Argonauta hians
頭足綱アオイガイ科のタコ。タコブネは本来殻のほうを指し,軟体はフネダコと呼ばれる。英名はpaper nautilusといわれるがnautilus(オウムガイ類)とはまったく異なる。アオイガイに比べると小さい。体長は12cmくらいで,外套(がいとう)はまるいがややとがっている。雌は膜状に特殊化した第1腕から炭酸カルシウムを分泌し,保育用の殻をつくる。殻には自由に出入りでき,その中で産卵する。殻内はオウムガイ類のような隔壁はない。殻は長さ8.5cm,幅3.5cmで薄く,殻頂は浅く巻き込む。殻は淡褐色で,放射肋の先端は角状突起となり黒ずむ。放射肋はアオイガイに比べて数少なく,棘状(きよくじよう)突起も数少なく鈍い。雄はこの類共通で小さく,雌の1/20で,殻を欠く。第3右腕は体長の3倍くらいと長大で交接腕となり,約50の吸盤があり,4cmほどの鞭状の先端があり,交接のときそれが切れて雌の体内に残る。世界の温・暖流の表層に分布し浮遊生活をする。日本では主として太平洋側にいる。よく似たチヂミタコブネA.boettgeriは殻がやや小型で狭く,放射肋2本ごとに突起が1個あるところで区別される。
執筆者:奥谷 喬司
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タコブネ
たこぶね / 蛸舟
章魚舟
[学] Argonauta hians
軟体動物門頭足綱アオイガイ科のタコ。雌がもつ卵哺育(ほいく)用の殻をさしてタコブネとよばれるが、動物体をいうときはフネダコともいう。浮遊性の種で、熱帯から亜熱帯海域の表層に広く分布し、日本では本州から九州の暖流域にもみられる。アオイガイによく似ているが、殻が小形で殻長径88ミリメートル、短径37ミリメートルぐらいで、灰黄色で薄く、低い突起列のある周縁は黒みがかる。殻をもつのは雌だけで、その軟体は体長120ミリメートル、外套(がいとう)(胴)長60ミリメートル、幅30ミリメートルに達する。雄は小形で右第3腕が交接腕となり、交接のときに切れて雌の外套腔(こう)に残る。殻は海岸に打ち上げられることがある。
[奥谷喬司]
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タコブネ
Argonauta hians
軟体動物門頭足綱アオイガイ科。タコブネは雌だけがもつ殻に対する名で,別名フネダコは軟体も含めた名である。アオイガイに似るがやや小型で,雌は体長 12cm,体幅 3cm。8本の腕をもち,膜状に広い第1腕から殻を分泌する。殻は長径 8.8cm,幅 3.7cm,内巻きで薄く淡黄色。殻表には太く低い放射肋があり,周縁はそのため鋸歯状になり黒みを帯びる。殻口はやや狭く,殻軸部の両側に耳状突起を有することがある。雄は小型で殻をもたず,左第3腕は細長く交接腕となり,その先端部が交接のとき切れて雌の体内に残る。世界の温帯・熱帯海域に広く分布し,表層域にすむ。殻は海岸に打上げられることがある。
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タコブネ
頭足類アオイガイ科。軟体はフネダコとも。アオイガイに似た小型の浮遊性のタコの一種,また,その雌の分泌した保育用の殻をいう。雌は体長12cmほど。殻はアオイガイに比べて放射状の肋(ろく)の数が少なく,色は灰褐色。全世界の熱帯および温帯域にすみ,大風のあとなどまれに海岸に漂着する。雄は雌の20分の1くらいの大きさで,殻を作らない。
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世界大百科事典(旧版)内のタコブネの言及
【アオイガイ(葵貝)】より
…浮遊生活をし,カメガイなどを捕食する。やや小型種の[タコブネ]も同様の分布を示すが,殻の放射肋の数が少なく,殻色もアオイガイのように白くなく,やや黄みを帯びる。【奥谷 喬司】。…
※「タコブネ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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